この世界
絶対神カルトが人間に魔法を授けてから2500年。
ひとり一つの魔法を手にした人間は子孫を増やし、その魔法の種類も複雑化していった。
そして、人間は幾多の戦いを乗り越え遂に世界平和を手に入れた。
そのうち魔法がによる不平等が社会問題となり、次第に魔法が無くとも生活できる世界が構築されていった。
電気とガスと水道の整備が行われ、通信の魔法が使えなくても遠く離れた友人と連絡ができ、火の魔法が使えなくても火を起こす事ができる様になった。
世界は平等を謳った。
そのために魔法に関しての法律も減った。
魔法を使うルールはただひとつ。
他人を傷つけるために使わない。
そのルールを守る刑法だけが残ったと言っても過言ではなかった。
そうするうちに盗みや詐欺といった犯罪が増えていった。
政府はこれに手を焼き、いい策はないか考えた。
『魔法がなくても誰もが平等に過ごせる世界、なら魔法を奪われても問題はないのではないか?』
これが政府が出した結論だった。
盗みや詐欺を働いた人間は捕まらない代わりに魔力を根こそぎ取られ一生魔法が使えなくなることになった。
これは、そんな世界の一人の少年と少女の話。
「真間。まーた世界史寝たんだって?タマちゃん先生困ってたよ?」
放課後、職員室。
赤のジャージを着たおっさん、赤石ルビ先生が出席簿をぱたぱたしながら言ってきた。この人三十代後半にみえるが実は二十代前半なのである。老け顔だ。
突然呼び出しを食らい、なにかと思えば、説教だった。
「...。」
俺は少し周りを見回しそのまま黙った。ルビ先生は小さくため息をつき、手をとめた。
「俺の前ぐらい話してもいいと思うけどなあ。」
そう言われて、俺はルビ先生の正面に座っているタマちゃん先生をみる。
タマちゃん先生はずっとびくびくしていて、目が合うと、ひゃっ!とどこかへ行ってしまった。
...これでどうやって話せと。
困ったようにルビ先生に視線を戻すと先生も呆れたようなため息を吐いた。
「大丈夫なんだけどなあ...。真間、この学校じゃお前を怒れるのは俺しかいないんだから、きっちり真面目に問題なく、やってくれよ?」
俺は少しぎこちなく頷き返した。
眠いものを眠らずにどうしろと。
とりあえず話が終わったようなので職員室からでようとする。
「あ、あと。」
呼び止められた。
振り返ると、ものすごく悪い笑顔のルビ先生が耳打ちしてきた。
「今日はたっぷり仕事がまってるから、よろしく。ハルくん?」
肩をポンッと叩かれる。
俺はため息をついてルビ先生に耳打ちを返す。
「さっさと終わらせますよ。ルビさん。」
そうしてグーでハイタッチしたあと俺は職員室を後にした。
帰り道。真夏の空の下。
俺は学校の下の紘間商店街にある本屋で参考書を選んでいた。というか立ち読みしていた。
店員さんがこちらを恐る恐る見てくる。
俺、真間波留は紘間三等学校の二年。歳は十七。...まではいいのだが、日本人には滅多に見られない白髪と赤目のせいで目立ってしまう。
俺は早々に寄り道を切り上げて帰ることにした。
紘間駅で電動車を待つ。
その間にも他人の視線は纏わりつく。視線を集めていると言えば聞こえは良いかもしれないが、全くもって気分がいいものではない。
彼らの視線の元は恐怖や好奇の感情だからだ。
電動車に乗り、空いていた椅子に腰掛ける。
平日の昼間は乗客が少ない。
俺への視線も少ない。
向かいの席に座っている姉妹がきゃっきゃっと魔法で遊んでいる。
姉の方は氷の魔法を持つらしく、妹の方へ粉雪をかけていた。
そのおかげでこのクソ暑い電動車の車内も気温がいくらか低かった。
電動車に揺られて15分。
電動車を降りると、ひたすらに続く田園風景を貫くあぜ道を歩いた。
姉妹が冷やした電動車とは比べ物にならないくらいの気温と湿度だ。日光が肌に突き刺さる。
虫の声が響く。
夏は嫌いだ。
生き物の香りがするから。
暑さに耐えながら10分ほど歩くと、広がる田園風景には似合わない白いコンクリート造りの建物が見えた。
門は大きく、入り口は狭く。
屋根の上の悪魔の羽のような風車は国の建物である象徴。
玄関には『国立魔法警察特殊犯罪部執行課』と書かれた木札がある。
ここが俺、真間波留の家であり、職場である建物だ。