頭も乾かさず、濡れた髪のままタオルを被り、一人会報誌を見ていた。
『やっぱ大好きやなー…』
馬鹿みたいに独り言でそう呟いてた。
部屋の明かりを消して、煙草をふかしながら目を閉じる。
瞼の裏には、大好きな彼等の姿が映し出される。
『これが記憶なのか…』
また独り言を呟いていた。
目を閉じて、すーっと浮かんでくる光景は、当たり前に存在するものじゃないんだね。
この目で見て、この肌で触れて、この心で感じて刻まれた、記憶という私の欠片なんだね。
幾つもの欠片が揃って、漸く今に繋がっているんだって事に気づいて…
私は急に胸が苦しくなった。
記憶を失うという事がどういう事か…
とてつもなく大きな不安が、声にならない嗚咽となって、体を震わせた。
大好きな人達と過ごした時間…
その一部を失うという事は、自分の体の一部を失うも同然の事なんだ。
当たり前にあった腕が、寝て起きたら消えてなくなっていた。
自分だったらどうする?
ただただ泣き喚き、周りの人間に縋って、どうにもならない現実に絶望して、未来を悲観するんじゃないかな。
生きる屍となって、惨めな最期を望んでしまうかもしれない。
…笑顔なんて、見せる自信がない。
なぁ…
同情なんかしないよ?
共感もできないかもしれない。
でも、その痛みと苦しみを拭ってあげたい。
こんな辛い思いをしてるのかと思うと、堪らないよ。
一人で泣いてるのかと思うと、胸が張り裂けそうになる。
私は上手に励ましたりなんかできない。
『大丈夫』って、その言葉を囁くのが精一杯。
仮想の痛みに涙を流す事しか、私にはできなかった。
なぁ…
いつか一緒に、大好きな海を見にいきたいね。
