早見 わたしはそんな人情論をしてゐるんぢやない。ただ、それは医者の資格においてするべきことかどうか、といふ疑問をもつてゐるだけです。言はば、対人的な、特別な技術を必要とする役目なんだから、責任はもてないといふだけです。しかし、わたしにやれとおつしやればやりますがね。
冬菜 いえ、やつぱり、あたくしから、折をみて、なんとかうまく切り出しますわ。いくら主人を信じてゐましても、結果がまつたく予想のつかないことのやうに思ひますから……。では、先生、ありがたうございました。あの……もうダメといたしましても、あと、どれくらゐの時日……?
早見 わかりません。そこまではわかりません。多分早ければ二十四時間以内、おそくても、三日はどうかと思ひます。わたしはこれから臨床講義に出ますが、急変がありましたら、お知らせください。では、一、二時間おきに、強心剤だけ、どうぞ……。
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早見博士が帰つた後、主治医の煙は、ぼんやり応接室に残り、冬菜は、ひとり、夫の病室に戻つて行く。
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加来 話が長すぎるぞ。
