店主は昭和57年11月20日に講談社から刊行されたブルーバックスの第1刷版、本間三郎先生著「超光速粒子タキオン 未来を見る粒子を求めて」を持っています。
この宇宙で一番速いものは光速である。あらゆる物質は光速を超える速度で移動することはできない……このアインシュタイン先生の光速度不変の原理を一蹴し、まるで嘲笑うかのような超光速粒子が存在し得る。現代物理学はそう主張しています。
タキオンと名付けられたその超光速粒子とは、一体、どのようなものなのでしょうか。本書のカバーの内折り部分に次のようなわかりやすい一文が載っておりますので、以下に引用させていただきます。
「タキオンは速い。そもそも生まれたときから光より速く、エネルギーを失えば失うほどますます速くなり、エネルギー・ゼロで無限大の速度に達する。宇宙の涯に瞬時に届き、ブラックホールから出てくることさえ可能かもしれないのだ。いったい、こんな粒子をどうやって探せばよいのか? タキオンの探索。現代の物理学に残されたこの夢と冒険に満ちたロマンを語ろう」
何と気違いじみた粒子でしょう(^^;)。
店主はこの本を面白半分の興味本位で買ってみたのですが、読んでいるうちにふと、わかりやすい物理学の入門書を多数お書きになられている故・猪木正文先生のお言葉を思い出しました。そのお言葉とは次のようなものであったと記憶しております。
「物理学上の新理論が本物かどうかを見極めるうえで信頼できる指標の一つは、その理論が十分気違いじみているかどうかである」
およそあり得ないインチキ理論、荒唐無稽を絵に描いたような与太理論、絵空理論……タキオンはまさに噴飯ものであり、たちの悪いサイエンスフィクションであり、常識が支配する世界に住んでいる常人からすれば、嘲笑と唾棄をもって迎えるしかない際物にすぎないと思われます。
けれども、十分気違いじみているというところが、店主には非常な魅力でした。
そして、本書の中で、著者、本間先生はとても興味深い一つの仮説をさらりとお述べになられております。それは「タキオンは宇宙空間そのものか」というもので、本間先生はこう書かれております。
「ゼロ・エネルギー・タキオンについてもう一つ興味あることがある。それはゼロ・エネルギー・タキオンの速度が無限大のため、そのようなタキオンの位置の不確定さが宇宙全体に拡がってしまうのではないかということである。
(中略)ゼロ・エネルギー・タキオンの存在確率が宇宙全体に拡がっているということは、非常に重要である。というのは、それは、そのタキオンの大きさが宇宙全体の空間であるということと同じなのかもしれないから。
(中略)その大きさが宇宙全体であるというようなタキオンは、いってしまえば、宇宙空間そのものである」
……何か、ますます気違いじみてきたような気がしますが(^^;)、ニールス・ボーア先生の量子力学の見地からすれば、上記の仮説は至極まっとうなものであって、決しておかしなお話ではないということになります。
そして、タキオンが本当に存在するとすると、我々の宇宙において絶対神として君臨する因果律が覆されることになるかもしれません。
原因はその結果よりも時間的に先行していなくてはならない。
これが因果律です。
ところが、タキオンを使えば、理論上、未来から過去への通信が可能になりますから、原因より早く結果がもたらされることになり、因果律は物の見事に破綻をきたしてしまうのです。
何とオソロシイ粒子でしょう(^^;)。
そうすると、かのタイムマシンも実現可能性が出てくるのではと思いますが、この点については店主の半端な物理知識では何も言うことができません。
ただ、アインシュタイン先生の相対性理論からタイムマシンは実現可能であるという解が既に導き出されており、世の科学者がタイムマシンを研究する目的はその実現可能性の探求ではなく、その非実現性の実証にあるというお話を聞いたことがあります。
サイエンスは実に面白いですね(^^)。
松尾芭蕉先生ではありませんが、夢はタキオンの枯野を駆けめぐるという感じですね(^^)。