最後の一滴。
それに気づいたのは
堰を切ったように零れたから。

少しは感じていた。
自分の事だから分かっている。
それが思い込みだったと気づいたのは
あふれるモノを止められなかったから…。

『今までに比べれば…』
呪文のように唱えていたのは
目を逸らしたかったからかもしれない。

辛い気持ちに、大きいも小さいもない。
苦しい気持ちにも。
だから私は、辛いという人がいれば
それを何かと比べたり
ましてや、自分の辛さと比べる事は嫌いだった。
本人にしか分からないのだから…。

心の中に溢れ出しそうなくらい
色んなモノが溜まっている事に
気付かず過ごそうとしていた。
いや、認めたくなかった。
『私はもう、あの頃の私じゃない』
そう言い聞かせて
強くなった振りを続けた。

最後の一滴が落ちたのが分かった。
それは確かに音を立てて
気付かぬ振りを続ける私の耳にも届いた。
表面張力ギリギリの所に落ちた一滴。
零れるしかない。
それなのに、まだ大丈夫だと言い聞かせた。


ふと言葉を口にした。
特別な言葉ではなく、ありふれたその辺に沢山転がっているような言葉。
そのありふれた言葉を
思いつくまま口にしていたら
両眼から涙が零れ始めた。
それでも、言葉を発する事を止めなかった。
止められなかった。
涙か鼻水かも分からないほど
顔はぐしゃぐしゃになっても
そんな事、取るに足らない事だったから…。


そして、口にして、涙が出て
始めて気付いた。

『泣きたかったんだ』

表面張力で保たれていた所に落ちた一滴は
とても大きかったのに
気付かない振りをする私に
心と体が一緒になって教えてくれた。

日本語にもならない私の言葉は
きっと意味が分からなかっただろう。


心の中の溢れ出しそうなモノが言葉となり
体の中の溢れたモノが涙となって
私のもとを飛び立っていった。

そして
ほんの少しだけ
ホッとした自分がそこに居た。

これでまた頑張れるね。

そう思えた事が
少し嬉しかった。



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