武者絵を得意にした浮世絵師の歌川国芳の描く自来也(じらいや)。

イケメンの役者のような、出で立ちですが何者なのでしょう。

江戸時代に自来也 (Jiraiya )という発音の名前も、奇抜でカッコイイですね。

 

 

 

 

 

 

歌川国芳の木曾街道六十九次之内 倉賀野 自来也

 

国芳の木曽街道六十九次之内は、嘉永5(1852)年から翌年にかけて版行された木曽街道(中山道)をテーマにした国芳による72枚の揃物です。

木曽街道は、江戸時代の江戸と京をむすぶ街道で、東海道と違い山道が多く険しい道だったと言います。

木曽街道シリーズと言えば、木曽街道の宿場の風景、名所を描いた英泉と広重が描いたものが有名ですが、国芳のこのシリーズは宿場の風景は画中のコマ絵の中に小さくあるだけで、主として描かれているのは、宿場の名前に掛けた物語や伝説に登場する人物などが描かれています。

 

 

倉賀野宿は江戸から12番目の宿場町で、現在の群馬県高崎市倉賀野町。

 

 

自来也は読本「自来也説話」に登場する架空の人物で、その正体は三好家の浪士・尾形周馬寛行(おがた しゅうま ひろゆき)といい、蝦蟇(ガマ)の妖術を使って活躍する義賊(盗賊)。

 

その後、上記の「自来也説話」を元にして、書かれた合巻「児雷也豪傑譚」においては、架空の忍者として登場しています。

 

この話の児雷也の正体は肥後の豪族の子・尾形周馬弘行(おがた しゅうま ひろゆき)と設定されています。

越後妙高山に棲む仙素道人から教えられた蝦蟇(ガマ)の妖術を使い、妻は蛞蝓(ナメクジ)の妖術を使う綱手(つなで)といい、宿敵の青柳池の大蛇から生まれた大蛇丸(おろちまる)と争う事になります。

児雷也・大蛇丸・綱手による「三すくみ」の人物設定は、この作品から登場しています。

 

「三すくみ」とは、ヘビはカエルを丸吞みにしますが、カエルはナメクジを食べてしまいます。

しかしナメクジは、ヘビには強くヘビを溶かしてしまいます。(現実にはありません)

互いに得意な相手と苦手な相手を1つずつ持ち、それで三者とも身動きが取れなくなるような状態のことです。(自分よりも弱い物を食べてしまえば、次は自分が食べられてしまうから)

 

 

設定としては自来也は義賊(盗賊)で、児雷也は忍者という事になります。

 

 

 

 

 

 

 

国芳のこの浮世絵は自来也なので、義賊(盗賊)ですね。

自来也が手下達と共に谷の下で、焚火をたいていると、頭上から赤ん坊が落ちてきました。

それを突先に助け上げ、何事かと上を見上げている場面になります。

 

この赤ん坊は軍太夫という悪党に討たれた、武士の遺児 勇侶吉郎(いさみともきちろう)といい、自来也が助けて仇討ちさせるというストーリーになります。

自来也の物語は大評判となり歌舞伎にもなりました。

 

 

 

   

 

 

浮世絵の右上には画題が書いてありますが、その周りに色々な物が描いてあります。

これは盗賊に関係した小道具が描かれていて、黒装束、鋸(のこぎり)、千両箱、がん灯、大木槌、鉤縄(かぎなわ)が描かれています。

 

右図では手下が赤ん坊を抱いているのが分かります。

 

 

今回は倉賀野で自来也を描いていますが、その関係を考えると確かな事では有りませんが、自来也達は盗賊なので暗闇に活動をします。

この場面でも谷底の暗がりに隠れていたので、「くらがり」「暗が野」という駄洒落(だじゃれ)なのではないでしょうか。

 

 

また左上のコマ絵には倉賀野近隣の街道風景が描かれていますが、どうも実際の風景ではなく、かなり適当に描かれているもののようです。

ナゼかと言うと新町~倉賀野~高崎間は平坦な道のりで、絵のような山道はないからです。

右側が崖のように見えますが、これは今回の自来也が谷底にいる設定なので、これに合わせたのかもしれません。

 

前回の高崎のコマ絵の風景も、可笑しかったですね。

 

 

 

三代豊国 豊国揮毫奇術競 賊首児雷也 (国立国会図書館蔵)