うちの町にジャイアント馬場が来たことがある。

力道山が世を去ってからのことだったと思う。

町営グランドに幕が引かれ、その中央にリングがつくられた。

外人選手もいたのだろうが記憶にない。

ただジャイアント馬場がすごくデカかったことだけを覚えている。

父は付近の山から私の天体望遠鏡で観戦していた。

節約家の父らしいと思ったが、テレビで見たほうがよっぽど楽しめそう。


それより以前、力道山全盛の頃のプロレスは本当に面白くて毎週金曜の夜8時というとテレビの前に集まって熱をいれて見ていた。

本格派のレスラー、ルー・テーズのバックドロップ対力道山の空手チョップなどはスポーツ性を感じる試合だったが、その他の興行的な試合が子供の私たちには真にせまって面白く感じられた。

噛み付き魔のブラッシーに力道山が額をかじられ血だるまになりながら空手チョップでやっつける姿など熱狂して応援したものだ。

あの流血の試合をテレビで見ていてショック死したお年寄りが全国で数人出たというのは、人々がそれだけ真剣に見ていた証拠のようなものだろう。

あんなものはショーだと世間が割り切って見るようになったのはずっと後年のことだったと思う。


そういえば母はテレビの時代劇を見ていて

「昔のひとは偉かったんだなぁ」

と時々本気で感心していたのが可笑しかった。


テレビの内容もシンプルだったけれど、それを見る側もずいぶんとウブだったようだ。