ニレさんという人がいた。

どんな字を書くのかは知らない。


いつも橋の欄干にもたれて川の流れを見ていた。

ズタ袋の様なズボン、擦り切れたシャツ。


近所の農家の次男だった。

歳は四十を越えていたろうか。

嫁もなく一人前の扱いを受けられない人だった。


川を、川の魚を見ながらニヤニヤしたり、目をすえて黙り込んでいたり、下校の途中見かけると気になる人だった。


私が橋の上でごはん粒をエサにハヤを釣っていると

「釣れるか」と声をかけられたことがあった。

大人が言うような人には感じられなかった。


古い部落の常として馬鹿にする対象が必要なだけだったのかも知れない。