うちの町の行事からテキヤを閉め出してしまってから20年程になるだろうか。
理由はいろいろあったのだろうが、今の素人ばかりがやっている露店や夜店を見ていると、なにか物足りなさを感じるのは私だけなのだろうか。
子供のころ、運動会の露店も盆祭りの夜店もテキヤがやるのがあたりまえで、素人がやる店などひとつもなかったと思う。
フーテンの寅さん程の口上を使えるテキヤはあまりいなかったが、その道のプロがやるとカケ声ひとつとっても祭りの情緒に違いが出るような気がするのだが。
やはり小学校の低学年の頃だと思うのだが、祭礼の無い時期だったのだろう、下校の途中の土手にひとりのテキヤが店開きしていた。
店と言ってもふろしきひとつだったような気がするが、それは砂絵の材料を売るテキヤだった。
今思えば、クモが網を張るように子供の下校時をねらって待っていたのだろう。
テキヤの口上に子供達が鈴なりになった。
テキヤがデンプンノリに浸した筆を画用紙に走らせ、着色した砂をかけ、払い落とす。
色違いの砂を使い二度三度、それをくり返すとキレイな砂絵が出来上がった。
「さあ、この砂とノリのセットで100円だよ。急がないと売り切れてしまうよ。」
そういったかどうかは知らないが、子供達がいっせいに家に向かって走り出したのは覚えている。
それはまるでクモの子を散らすように。
息せき切って家に着き、母に砂絵を買いたいと訴えたが取り合ってはもらえなかった。
駄々をこねる子供ではなかったが、砂絵のセットに対する未練がながく残っていたのを覚えている。
一場の夢を見させる、あれがプロのテキヤだと今も思う。