主人の訃報を聞いてすぐ、フランスの友人が贈ってくれた一編の詩があります。
”Le mort n'est rien”
死なんてなんでもないよ、っていうのが直訳。

最初に読んだときは涙で最後まで読み切れず、そのあとは何度も何度も読み返し、
その度に泣いて、その度に救われていました。
今でも、手元に置いて時々読み返しています。
フランス語が原文なのかと思っていたら、
イギリスの神学者で詩人のヘンリー・スコット・ホランドという方が書いた、100年も前の詩でした。
英語が原本だったんだなあと。
「さよならのあとで」という題で、日本語の絵本も出ているようです。
友人が和訳を送ってくれたので、そのまま記載しますね。
死はなんでもないものです。
私はただ となりの部屋にそっと移っただけ。
私は今でも私のまま
あなたは今でもあなたのまま。
私とあなたは
かつて私たちが そうであった関係のままで
これからもありつづけます。
私のことをこれまでどおりの
親しい名前で呼んでください。
あなたがいつもそうしたように
気軽な調子で話しかけて。
あなたの声音を変えないで。
重々しく、悲しそうな
不自然な素振りを見せないで。
私たち二人が面白がって笑った
冗談話に笑って。
人生を楽しんで。
ほほえみを忘れないで。
私のことを思ってください。
私のために祈ってください。
私の名前がこれまでどおり
ありふれた言葉として呼ばれますように。
私の名前が
なんの努力もいらずに自然に
あなたの口の端に のぼりますように。
私の名前が
少しの暗いかげもなく 話されますように。
人生の意味は
これまでと変わってはいません。
人生はこれまでと同じ形でつづいています。
それはすこしも途切れることなく
これからもつづいていきます。
私が見えなくなったからといって
どうして私が 忘れられてしまうことがあるでしょう。
私はしばしあなたを待っています。
どこかとても近いところで。
あの角を曲がったところで。
すべてはよしです。
『さよならのあとで』
詩 ヘンリー・スコット・ホランド
絵 高橋和枝
そう。
人生は続くのです。
どんなに悲しい別れがあろうと、どんなに理不尽な目に遭おうと、
何度「わー、終わった!」って叫ぼうと。
「生かされてる」って、そういうことだと思うんです。
この詩の素晴らしいところは、
必ずしも「死=マイナス」ではないよと思わせてくれるところ。
「死=不浄」という捉え方が残る日本では、なかなか出て来ない視点だと思います。
無宗教な私ですが、キリスト教のこういうところは好き。
そして、また別の意味で考えさせられたのはこの部分。
Ce que j'etais pour vous, je le suis toujour.
私とあなたはかつて私たちが そうであった関係のままで
これからもありつづけます。
私たち夫婦って、傍目にはものすごく仲睦まじく映っていたみたいですが、
なんだかんだ一緒になって20年近く経ちますからね。
世間一般のご夫婦と同様、それなりに問題もあり、行き違いもあり、
絶対に許せない!離婚ー!!って思うこともあったりしたわけですよ。
特に、離れて暮らしていたここ2年間というもの、
めっきりお互いの存在が気薄になってしまっていて。
彼がいなくなる直前は結婚記念日だったんですが、
どちらからも何も連絡をしないぐらいには、しれっとした夫婦だったわけです。
それが。
それがですよ。
いなくなった瞬間から、
一気に彼の存在が身近になってしまったんです。
「いなくなった」というよりは、
「戻って来た」という感覚。
なにやらとても近くにいる。
しかも四六時中。
これはもう、感覚でしかないのでなんとも言えないんですけどね。
おまけに、その人が「概念」としてしか存在しなくなると、
なんだかいい時のことしか思い出さなくなっちゃうんですよ。
これが問題。
出会った頃のこと、仲睦まじかった頃のこと、家族を笑わせてくれる、明るく楽しいパパでいてくれたこと。
そんなことばかりが思い出されて、
ここ最近のマイナスは、なぜかすっかり帳消しにされている。
「かつて私たちがそうであった関係のままであり続ける」なら、
それはちょっとずるいんじゃないのー?!
あ、死んだら仏になるから、
現世の罪はもう償ってて帳消しってことなのかな。
って、そこだけ仏教?!
うーん。。
なんか微妙にモヤモヤする。。
目の前にいなくなってしまった人と付き合い続けるって、ほんとに難しい。
嫌なことを覚えていたほうが楽だなと、思うこともあったりして。
ま、でもやっぱり、無理して悪いことばかり思い出すより、
楽しかったことだけ覚えているほうがずっといいのかな。
うん、きっとそうだ。そうに違いない。
だったら私は、旦那様との「いい思い出だけ」を側に置いて生きていこう。
彼と共にしたかけがえのない経験を、宝物にして生きていこう。
生きていかなきゃいけないなら、
少しでも明るく、楽しくね。
Vous voyez tout est bien.
大丈夫、何も心配いらないよ。