人の印象は、必ずしも見た目だけで決まるものではない。
そんな当たり前のことを、最近あらためて考えている。
私には13歳年下、42歳の彼氏がいる。そして私は55歳のおばちゃんである。
少しでも若く見られたいと、それなりに努力はしている。でも、元が美人というわけでもない。性格は男っぽく、ガサツで、家事も苦手。女性らしさのかけらもないと自分では思っている。
強いて長所を挙げるなら、変わっているところくらいか。
気になることはすぐに始める。面白そうなことを見つけると、あれこれ首を突っ込む。いつも何かを始めては、また次の面白そうなものを探している。
それが長所なのか短所なのか、自分でもよくわからない。
そんな私に、彼氏は言う。
「可愛いねー」
……え?
誰が?
私が?
いやいや、ちょっと待ってほしい。あなたの目は大丈夫だろうか。
しかも、付き合って13年以上たった今でも、そう言ってくれる。
恋愛初期なら、好きな人が何倍も素敵に見えることはあるだろう。欠点さえも魅力に見える。いわゆる恋愛フィルターというやつだ。
しかし、13年以上である。
そろそろフィルターが剥がれてもよさそうなものだ。
もしかすると、この人の視覚中枢には、写真加工アプリ「Snow」のような機能が標準装備されているのではないだろうか。
私を見るたび、脳内で美肌加工。輪郭補正。そして年齢まで補正され、最後には「可愛い」という判定が出る。
そう考えれば、なんとなく納得がいく。
いや、納得していいのか?
美人の友人が選んだ男性
そんなことを考えていたら、昔の友人を思い出した。
その友人は、女優さんかと思うくらい美人だった。
ところが、彼女が付き合っていたのは、私から見ると「どうしてこの人?」と思う男性だった。失礼ながら、頭髪もかなり寂しい。もちろん、これは私の勝手な偏見である。
それでも彼女は、その男性のことが大好きだった。
「なんで?」
思わずそう思ってしまった。
あんなに美人なのに。もっと格好いい人がいるだろうに。もっと条件のいい人だっているだろうに。
私は他人の恋愛に、勝手な採点をしていたのである。
でも、今になって考えると、私は何を基準に「釣り合わない」と判断していたのだろう。
顔か。年齢か。髪の毛の量か。世間一般でいう、男女の見た目のバランスか。
そんなものを並べて、勝手に点数をつけていたのかもしれない。
けれど、彼女には、私には見えていない魅力が見えていたのだろう。
一緒にいると安心するのかもしれない。話が合うのかもしれない。自分を大切にしてくれるのかもしれない。
他人にはわからない、その人だけの魅力があるのだ。
当時の私は、そんな単純なことにも気づいていなかった。
好きになると、見え方が変わる
人は目から入る情報で相手の印象をつくる。
顔、体形、服装、表情、年齢。初対面なら、見た目の影響は大きいだろう。
でも、誰かを好きになったとき、私たちは本当に、その人の姿をそのまま見ているのだろうか。
好きだから、笑顔が素敵に見える。ちょっとした仕草が可愛く見える。ほかの人なら気になる欠点も、好きな人なら気にならなくなる。
反対に、苦手な人の言動は気になるのに、好きな人なら笑って許せることもある。
同じ人間でも、見る人によって印象が違う。
もしかすると、相手の姿が変わるのではなく、自分の中にある「その人を見るレンズ」が変わるのかもしれない。
一緒に過ごした時間や、交わした言葉、相手に対して感じている気持ち。そういうものが積み重なり、その人だけの見え方ができあがるのだろう。
だとしたら、彼氏の目に映っている私は、私が鏡で見る私とは違うのかもしれない。
私が気にしているシミやシワよりも、別の何かを見ているのだろうか。
そう考えると、人間の目というのは、ただ物の形や色を映すだけのものではないような気がする。
私に見えていない私
自分では短所だと思っているところを、誰かは面白いと思ってくれるかもしれない。
ガサツだと思っているところを、気取らなくていいと感じてくれるかもしれない。
変わっていると思っているところを、一緒にいて飽きないと感じてくれるかもしれない。
自分が思っている自分と、他人が見ている自分は、必ずしも同じではない。
年齢を重ねると、若い頃と同じではいられない。見た目も少しずつ変わっていく。
それでも、年齢や容姿だけで人の魅力が決まるわけではないのだろう。
誰かにとっては欠点でも、別の誰かにとっては魅力になる。
すべての人に好かれる必要もなければ、誰かの基準に合わせて自分を変え続ける必要もない。
自分では気づいていない魅力が、誰かにはちゃんと見えていることもあるのだから。
そう思うと、自分のことを少し違う目で見てみてもいいのかもしれない。
……と、少し真面目な話になってしまった。
結局のところ、彼氏の視覚中枢にSnowが搭載されているのかどうかは、わからない。
ただ、13年以上も私を可愛く見せ続けているのだから、相当な高性能である。
これからシミもシワも増えるだろうが、できればその加工機能は解除しないでいただきたい。
なにしろ、55歳のおばちゃんをここまで可愛く見せるのだ。
それはもう、恋愛フィルターではない。
国の重要文化財級の高性能Snowである。