むこう岸
1,512円
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引き込まれて一気読み。 主人公たちと同じ中学生やその前後の年齢層に読まれることを想定した読みやすい本だが内容は深い。 子ども騙しでない、ほんものの児童文学、つまりは大人が真摯に読んで裏切られない本だ。
主人公は公立中学校3年のクラスで出会った二人、山之内和真と佐野樹希。
和真は医師の息子。塾で必死に勉強して合格した超難関の蒼洋中学で落ちこぼれ、学区外の公立中に転校した。家族からは高校受験での巻き返しを期待されている。
樹希の父は小5の時に事故死し、妊娠中の母は心の病に。生活保護を受け、中学に通いながら、家事と妹奈津希の保育園送迎もしなければならない。
別世界の人間と思っていた相手とひょんなことから出会って、
和真は、「カフェ・居場所」の二階で、親に内緒で、外国人とのハーフで口のきけないアベルくんに勉強を教えるはめに。
きみはばかではありません!そして、自分も?
出会いが二人を変えていく。
生活保護家庭の樹希は夢を持っていいのか?
社会的なテーマは生活保護。
心理的な主題は「居場所」。
孤独な人間の最後の拠り所。
生活保護手帳!あれ、中学生が読むか?
実務の現場で検索する本で、名前は手帳だけどぶ厚いし、通しで読むようなものじゃない。
この作者はきちんとわかって書いているのだと好感を持った。
登場する大人たちの、人間の大きさがさまざま。ほとんどは反面教師だが、頼りになる人もいる。
誰が魅力的で、誰の真似をしてはいけないかは、子どもたちにもちゃんと伝わるだろう。
相手の立場に立って考える想像力のない奴は、インテリじゃあない。あたまの悪い人間だ。
知りもしないで批判する底の浅い者たちは、他者と比べて優位に立つことにしか自分の価値を見出だせない。
お互い様、という思いをどこまで広げられるかで、世間の住みやすさは決まる。
「カフェ・居場所」のマスターの教育力が半端ない。
ボランティアの「こども食堂」
無料塾「あおぞら」
人と人とが誠意をもって繋がるとき、初めて見えてくるものがある。
ネットで全世界に繋がっているはずの平成育ちの閉塞感、小ぢんまり感が、昔より強い気がするのは何故だろう。
自由なようで自由でない。
恵まれているようで幸福感がない。
安易にレッテルを貼り、リカバリーを許さない。
自己肯定感の低さも気になる。
細い鎖で柱に繋がれた象のように、自分なんて、と言う若者たち。
人は親を、生まれてくる家庭を選べない。
学び、知ることで世界の広がるよろこびを知らない親に、強いられる勉強は苦痛だろうし、学ぶ機会を奪われ翼をもがれた才能もあるだろう。
しかし、親は選べないが友だちは選べる。
他者に認められ、信頼され、愛されることでヒトは初めて人間に育つ。
むこう岸のあんな奴らと言われるかもしれない。
もう、お前なんてこちら側の人間ではないと言われるかもしれない。
それでも、むこう岸とこちら側を隔てる川を飛び越えるだけの俯瞰する認識力があれば、世界は桁違いに大きく深く広がるのである。
あたしと社会は五分五分、と気づいた樹希の勇気ある行動が、ようやく母を動かす。
居場所を与えられるのでなく、自ら探そうと踏み出す和真も、成長している。
他者のために居場所を整えたいという思いの中に、既に自分の居場所はあると気づく日も近いだろう。
それぞれの場でもがき苦しんでいる若者にとって、生き延びるヒントになるかもしれない。スーパーのおっさんも、引き返すなら今だ。
2019年度の日本児童文学者協会賞受賞作。
今の毎日はなんか違うと思っている若い読者にはもちろんだが、これまで生活保護に関心のなかった方、児童文学は子どもの読み物と思っている大人の方にもお勧めできる良書。
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