意宇六社シリーズ「八重垣神社」⑤(『知られざる日本の面影』)-7 奥の院「神の森」① | 亀甲紋のブログ

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出雲国総社(六所神社)神官が、知られざる出雲の歴史・伝承や所蔵品等を公開しています。

小泉八雲が紹介する

八重垣神社の奥の院神の森 です。


第5節

おとめ座

この年古りた森

― うっそうと生い茂っているので、

  日なたから木蔭へはいりたては、何もかもまっ黒に見える ―
は、竹、ツバキ、サカキにまじって、杉・松の大木から成っている。
薄暗いのは、おもに大きな竹が密生しているからである。


どこの神社の森にも、樹木のあいだに竹がみっしりと植えてあるが、
鳥の羽のようなひらひらしたその葉の茂みが、

ほかの厚い葉の茂った樹頭の隙間をふさいで、

まったく天日を蔽いかくしている。


ほかの樹木がなくても、いったい竹やぶのなかというものは、

いつも深い薄明を呈しているものだ。


この万緑のうすら明かりに、やがて目がなれてくると、
立ち木のあいだにある一導の細い径が浮き上がってくる。
ビロードのように柔らかな、美しい青苔に蔽われた細径である。


むかし、参詣者がこの神の森へはいる前に、

履物をぬがなければならなかったころには、

この天然の毛氈は、疲れた足にとって、さぞかしありがたい福音であったことだろう。


次に、よく見ると、目につくことは、幾かかえもあるような大きな木の幹が、
みんな厚い筵で7、8尺の高さまでくるんであることだ。

そして、その筵が、ところどころに穴があいている


この森のなかの木は、みな神木だから、霊験があるものと信じられている。

それらの木の皮を、参詣者が剥がして行くといけないというので、

それでこうして筵が巻いてあるのだが、

正直よりも熱意の方が先に立つ参詣者たちは、

さっさとその筵を破いて木の皮を持って帰るものとみえる。


それからその次に珍らしいことは、

大きな竹の幹に、一面に字が書いてあることである。

これはみな、恋人たちの祈願と、女の子の名前なのだ。


いろいろ植物のあるなかで、自分の恋い焦れる人の名前を書きつけるのに、
なるほど、すべすべした竹の幹ほどぐあいのいいものはあるまい。

ここに書いてある字は、どの字も、はじめは軽く痕をつけたのだろうが、

それが竹の育つのといっしょに字までが育って、今では大きく黒々となって、

いつまでも消えずにいる。



⑭  ⑮
     森 手前からの景観        小径(今は二股になっている)

                       左は御神木の大杉へ、右は「鏡の池」へ

 
      竹やぶ(左側)                  大杉



宝石ブルー 最近、色々と整備がなされて明るくなりました。
  (小径の苔は一時的に無くなりましたが、いずれ復活するでしょう)おとめ座
宝石緑 今は、竹に文字を書く人は居ない様です。

 ⇒〔次回は、「神の森」にある「鏡の池」です。〕