ゆっくりと目が覚める。
窓から日差しが差し込んでいた。
心地よい疲労感に包まれて俺は眠っていた。
こんなにグッスリ眠れたのは何日ぶりだろうか…
ガラッ…
突然部屋のドアが開けられて驚く。
『翔くん、逃げてっ。』
え、何事っ。
『早くっ!』
わけもわからず強引にベッドから引きずり出される。
さすがに裸のまま明るいところに出るのは躊躇されるたが、そんな俺の感情は無情に無視された。
散らかった洋服がかき集められてベランダに向かわされる。
なんなんだ…
ピンポン、ピンポン…
インターホンが鳴っていた。
まさかっ…
ガラッ…
『ここに隠れてて。』
窓がピシャッと閉められた。
慌てて洋服を身に着けていく。
だが、どこを探してもパンツが見当たらなかった。
しょうがない。
俺はそのままズボンをはくと、窓のどこからか中の様子を覗けないかと探った。
カーテンの隙間から室内が見えていた。
誰もいない。
だが、扉が開いて誰かが入って来たのが見えた。
大柄の男性がクローゼットを開く。
何か探している様子なのを万里得さんが必死に止めていた。
まさか旦那っ。
ドキッとした瞬間にこちらを振り向いた男と目が合った気がした。
マズいっ。
俺は慌てて窓から離れると下を覗く。
二階だけど、高い…
ううっ…
何故か叫び声が聞こえる気がした。
ここから逃げないと…
俺はベランダの柵を掴んで外側に降りようとした。
柵にぶら下がれば、地面も近いかもしれない。
それに賭けた。
何とか捕まってぶら下がる。
賭けたけど、やっぱり地面は遠かった。
どうしよう…
落ちたとしても死にはしない距離だと思うが、どうしても手を離すことが出来ないでいた。
こわいっ。
ガラッ…
窓が開く音がする。
<貴様かっ!>
鬼の形相を見せられて思わず手が離れていた。
ズドンッ。
尻が痛…
<まて、このヤロー!>
叫ぶ男を羽交い絞めにする万里得さんが見えた。
殺されるっ!
俺は起き上がると一目散に走りだしていた。
◇◇◇
ジリジリと暑い日差しが照りつける。
何とか日陰を探して避難していた。
喉が渇いたな…
辺りを見回して、自動販売機を見付けるや否や急いで駆け寄っていた。
迷うことなく水を選んでボタンを押そうとして、財布がない事に気が付いた。
餓えていた。
いつだって、どんな時だって体は水を欲する。
腹も減って、食欲もある。
だが、現金がない俺には手が届かなかった。
『翔ちゃんっ!』
雅紀!
「おせーよ。」
『何言ってるのっ、これでも急いできたのにっ。』
携帯を持っていて助かった。
『翔ちゃん…?』
駆け寄ってきた雅紀が心配そうにのぞき込む。
「…くれ。」
『え…?』
「水をくれっ。」
『え…あっ…ああ…。』
雅紀が急いで自動販売機の水を買っていた。
渡されるのも待てないで奪い取るとキャップを開けてゴクゴクと一気に飲み干していた。
ああ…
体の隅々にいきわたるのが分かる。
俺は生き返っていた。