@Days 78 | 青くんの部屋

青くんの部屋

ここはサトシック、アラシックのお部屋です。
【★取り扱い説明書】をご確認の上、入室ください。

 

 

 

 

 

 

舞台の最中はそのことで一杯で、ほかの事には気が回らない。

だが、俺の日常はカズのおかげですべてうまく整えられていた。

 

 

『何…? 服探してるの…?』

 

 

目ざとく見つけられる。

一緒に暮らしているんだから当たり前か…

 

 

『智の持ってたのはこっちに入ってるけど…どうせだから買いに行く…?』

「…。」

 

 

一緒にって意味に聞こえた。

 

 

「いや…。」

『一人でどっか行くの…?』

「うん…まあ…。」

『そう。 じゃあ、それは今度ね。

でも、気に入ったのがあったら買っておいでよ…。』

 

 

そう言うと部屋から出ていく。

そしてすぐさま戻ってきた手にはカードが握られていた。

 

 

『はい。』

「…。」

『お金ないでしょ…? こっちの方が便利だし…なくさないでね。』

 

 

そう言えば申込書に記名したのを思い出していた。

俺に発行されるわけないと思っていたけど…

カードには 「ONO SATOSHI 」 となっていた。

 

 

「でも…。」

『ちゃんと給料払うから大丈夫だよ。』

 

 

確かに…

でなきゃ、審査が下りるわけがない。

俺は財布にカードをしまうと、シャツに袖を通した。

ベージュのパンツをはきおえると、濃い茶色のカーディガンを渡される。

 

 

『お店の人のコーディだとこれだって。』

「そうなの…?」

 

 

よくわからない。

だが、来てみるとオシャレなのは間違いなかった。

顔には伊達メガネ。

そんな必要があるとは思えないけど…

 

 

『もし、記者とかに見つかったら冷静に堂々とね。

写真を撮らせてやるくらいのつもりで…。』

「わかった。」

 

 

そんなわけないけど、素直に答えておいた。

俺が、一人の時間がないとダメなヤツだって知ってるからだろう。

カズは何も不審に思っていないみたいだった。

 

 

『ふふっ…かっこいいよ。』

「…。」

『行っておいで。』

「ああ…。」

 

 

俺はカズに見送られてマンションを後にした。

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

指定されたお店はすぐに分かった。

平日だと言うのに人が多い。

どうやって見つけようかと思ってウロウロしていたら、彼方から声をかけられた。

 

 

『出ましょう…。』

「え…?」

『場所がわかりやすいと思ってここにしただけなの。

こんな人の多いところでは落ち着かないわ。』

 

 

先日楽屋に来た時はお着物だたが、今は薄紫の何か柄の入った綺麗なワンピース姿だった。

俺はそんな彼女と連れ立って店を後にした。

 

ビルの中にあるレストラン。

食事をと言われたが、そんな気分になれなかった。

 

 

『こちらがお呼びたてしたわけだし、遠慮することでもないのに…。』

「それより…何か話が…?」

『意外にせっかちね。

それとも芸能人だから人目を気にしているのかしら…?』

「俺なんて…そんな知名度ありませんよ。」

『そうね。 昨日のあの子たちはミーハーだから別だけど、ほかの人は知らないみたいだったわ。』

 

 

遠回しに人気がないと言われたようなものだった。

嫌味というより、昔からはっきりモノをいう人だったから性格なのだろう。

 

 

『今、和也はあなたと暮らしているのね…?』

「一応…そうです。」

『とうとう付き合ったってわけね…?』

「それは…違うと思います。」

『あら、違うの…?

だってあんなに母に嫌われてるのに離れなかったじゃない…?』

「俺は今帰るところがないんです。

だから、カズのところを間借りしてるようなものです。」

『弟はわざわざあなたのために会社を始めたのよ。

それなのに、ただ同居してるだけですって…?』

 

 

一回寝たけど、それだけだ。

あれきりカズは俺に何もしようとはしなかった。