@幸福の木 Ⅲ 100 端緒 7 | 青くんの部屋

青くんの部屋

ここはサトシック、アラシックのお部屋です。
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どういうわけだか、翔くんは薄らと笑みを浮かべていた。
そして、今はそんな笑みも消えてしまっていたけれど怒ってる様子でもない。

…?

彼の予想外の反応に戸惑う。
いつもと違う…


『そんなに俺を怒らせたいのは…何で…?』
「!」
『いい加減わかるよ。 時々、わざと怒らせようとするよね。
そういう時って、追求されたくない時だって自覚してた?』
「はっ?」
『再会した時もそうだった。
今のは何で?
俺と距離を置きたくなった理由は?
雅紀が現れたから?』
「…違う…。」
『俺の事を許せないって思ったの?
信じられないって…?
だから、距離を置いて追っ払いたくなった?』
「違うっ!」
『愛してるって言ってるのに何で信じてくれないの?』
「…っ。」
『俺の為にならないとでも思ってるの…?』
「違うって言ってるだろっ!」


大声を出してしまった。
でも、何故か翔くんは怒る様子の欠片もなかった。
慌てる様子もない。
強いて言えば、少し呆れている様な感じ…
いつもと反応が違う…
なんで…?
その余裕たっぷりな態度にイラついた。


「あんな事言って困るのは翔くんだっ。」
『あんなこと…? 何の話?』
「恋人じゃないっ。」
『ふっ、じゃあ愛人だって紹介すれば智くんは納得するの?』





「ばかやろっ!」


そんなのわざわざ友達に紹介するヤツいるかっ!


『いいよ、
智くんが好きなように紹介するから…何がいい?』
「紹介なんてしなくていいんだよっ。」


そんな必要ない。
俺はいずれ…
いずれ…


『…おれはいずれ出て行くから?
必要ないとでも思ってるの?』




そう言い終えて、翔くんは目を伏せた。
俺は唖然として翔くんを見ていたんだ。
まるで、心を読まれてるみたいに思いを言葉で声に変えて行く。
引いてくれる気配はまったくない。
なんでこんな…


『酷いね…俺が望む間は…ずっと側にいるって約束したのに…。』
「そっ…。」


それは嘘じゃない。
でも、いつまでも続かない。
もしかしたら、相葉ちゃんが耐え切れなくて告白する可能性だってある。
明らかに、俺を敵視していた。
彼の立場なら、当然だ。


『俺がもういいって言うのを待ってるの?』
「…。」


何も答えない。
言葉で翔くんには勝てない。


『悪いけど…そんな日は来ないよ…。』


翔くんは静かに淡々とした調子でそんな事を口にした。


『松本には敵わないって思ってたし葛藤だってあった。
あんなに貴方に愛される自信なんて正直なかったけど…。』


…?


『今は違う…。』


何を言って…


『光が見えてるのに手放すわけないでしょ?』
「はぁ…?」
『あなた、俺が好きなんだよ。』
「何言って…。」
『自分の過去に泣いたって貴方が自分で今、言ったんだ。』
「だからっ。」


翔くんが相葉ちゃんと愛し合ったのが気に入らないなんて一言も言ってない。
本当は…
気になってるけど、それは俺が関知する事じゃない。


『覚えてる?
前に、あなた松本に…綺麗な自分をあげられなくって哀しいって泣いて言ってたんだよ。』
「そんな話…。」


何で今更…


『あの時、智くんは本気なんだって分かったよ。
本気で松本の事愛してるんだなって…。』


随分と恥ずかしい話をした。
翔くんと一生の決別を覚悟したから正直に自分の気持ちを伝えたいと思ったんだ。


『それで、今は俺と過去が違う事で泣いたんだ。』


そうだ。
釣り合わない。
違い過ぎる。
俺たちはとっくに壊れてる…
道は別ったんだ。
ただ翔くんだけがそれを覚えていなかった。


『それって、俺と過去を一緒に過ごしたかったって事じゃないの?』





『俺の相手が…自分だったら良かったって思ったからじゃないの?』


翔くんの眸がじっと俺を捉えていた。

 

 

 

 

 


冷静で自信と確信のある時の彼の…

見透かされている気がして言いしれない不安が押し寄せた。
あの頃は…
ずっと一緒に居られるって思ってた。
君と仲たがいするなんて想像もした事がなかった。
ましてや…
俺を…
俺を…

 

 

 

 

 


俺は、一体どうしたいんだ?

つっかえたような心のモヤモヤに言葉が見つからない。


『智くん…?』
「…いずれ…。」
『?』
「後悔する。」
『え…?』


俺はさっと立ち上がると、驚いた翔くんを放ったまま
逃げるように部屋に戻った。

パタンッ…

君の為なんかじゃない。
こうしてここにいるのも自分の為だし、逃げたいのも自分の為だった。
ただ…
今度こそ、あの時の熱を受け止める気でいた。
自分が与えた代償を必ず果たす気でいた。
なのに翔くんは…
まるで違う。
優しい目で俺をみる。
熱い眸…
覚えがあるその眸で俺を見ていた。

どうせ、続かないって解っているのに…
そんな彼に…

 

 

 

 

 


震えていた。





◆◆◆ 翔





後悔する…?
過去を気にした言葉だろうか?
確信の様な物を得たと思っていたのに、起きてきた智くんは拍子抜けするくらい平静だった。
俺の勘違い…?
膨らんだ希望が萎んでいく。
だが、俺が真剣に説明を始めた途端に智くんは凄く感情的になっていった。
必死に冷静を装ってるつもりだったんだろうけど、関係ないって言ってるつもりなんだろうけど、傷付いて逃げたがってるのがわかった。

計算なんかじゃない。
俺の事、なんともないんだったらそんな事にならない。
沈みかけた確信が再び頭をもたげる。
そして分かった事。

やっぱり…


自分の事より、俺の事だった。
不思議だ。
拒絶されたって言うのに、それほど傷ついていなかった。
あの人が何を考えているか分からないけど、わかったこともあった。
部屋には行かない。
追い詰めることになるだろうし、いじめてるみたいで可哀想だから…

俺の事…

大事なんだ。

はっきりわかった。


松本を愛していた気持ちと比べものにならないかも知れないけど俺を好きなのは間違いない。
そしてそれは、以前も確信した事てもあった。
叫んで、俺の事必死で遠ざけようとしていた時を思い出す。
俺が嫌がるのを承知であんなこと繰り返すんだ。
自虐的だ。
でも、心の奥底に本当の気持ちが隠されてる。
何故か、そんな気がする。

俺に受け入れて欲しいんじゃないの?
汚れてるって言いながら、ダメだって繰り返しながら本当はそんな全てを受け入れて欲しいんじゃないの?

俺に…
バカだな…
受け入れてるよ。
愛してるって何度も言ってるのに、それじゃあ貴方に伝わらない。
智くんの心に届かない。
ピシャリと閉じてしられた扉は そんな事では開かない。


「はぁ…。」


どうしたらいいんだろう…
喜びを感じながら、気付いた難問に当惑していた。