ある酒に酔った女が言った。「この本には私がゼロからイチを作った英知が掲載されている。この本を理解できる人はいるか」と。
周囲の男が名乗りを上げたけど、その本を読んでも理解できない。「この文字は何だ。この世界に存在する言語で書かれていないから、何が書いてあるかを理解できない」と。
酔った女は言った。「ゼロからイチを生むために自分は新たな言語体系を構築して新たな知識を作ったのだ。本当は紙を使った本という既存にある形で残すつもりはなかったけれど、他人に知ってもらうためだから仕方がない。わかるでしょう」と。
周囲の男が尋ねた。「この本に書かれている内容が分からないから教えてほしい」と。
酔った女は言った。「誰にも書けない世界の乙女心を詩にして書いた文章だよ」と。
周囲の男が尋ねた。「新たな言語を作らなくても既存の言語で書いたら、異世界小説好きな誰かが読んでくれるかもしれない。その方が人のためになる」と。
酔った女は言った。「それではゼロからイチを生み出したことにはならない。私は天地創造した神のような存在になりたかった。わかるでしょう」と。
周囲の男たちは酔った女の欲望が理解できなかった。誰にも理解できないようなものを作ってまでゼロからイチを作る必要はない。酒に酔った女の創造物に意味があったのだろうか。人にとっては意味がない厄介な本を残したと言えないだろうか。あなたは真剣に創造を試みる彼女の相手をしたいだろうか。
注意:作り話より。
◆解説
私たちはゼロからイチを創造したような知識を必要としない。
知識をゼロから作りたいなら既存の言語や知識に囚われてはいけない。ゼロから作った知識は個人が理解できる独自の言語を使って新たに作った知識だ。その新たな知識は既存の知識を用いて生活している他人には理解不可能だ。もしゼロから作った知識を理解しようするならば個人が作った言語を理解する必要がある。そこまでしてゼロから知識を利用する必要がないだろう。人は既存の言語や知識を利用したから新たな知識を理解できる。
さらにゼロから知識を作り出すために言語だけではなく、既存の世界に囚われてはいけない。現実世界に囚われない空想世界を作り出す必要がある。現実には存在しない生き物や自然環境や自然現象が存在する異世界を作る。しかし、どのようにしても現実世界に影響を受ける。現実世界には人と呼ぶ存在や男と女という概念があり、生活習慣がある。また、動物や植物が存在する。そのような現実世界ではない世界を創造する必要がある。
しかし、想像を本にした時点でゼロからイチを作ったとは言えない。想像を形にするために利用した本とは既存の文化だ。新しい言語を作る行為自体も既存の知識を生んだ文化に依存しているだろう。この世界にはない創造物を作る行為自体が不可能かもしれない。既存の文化を知っている人は既存の文化によって作られた物事を利用してしまうだろう。誰も考えられないような新しい物事などを既存の物事を利用せずに作るのは難しい。
したがって、ゼロから知識を作ったとしても、その知識を他人は理解できないだろう。人は知識の想像物を創造物として作成する。そのとき、人が理解できない独自の言語で知識を作っても自分以外理解できない。また、既存の概念とは異なる新たな概念を用いて知識を創造したら、知識の理解がより難しくなる。その独自の言語は独自の暗号として利用できる。その暗号を解読するための知識がなければ、新しい知識を理解できない。
ゼロから作った知識を書いた創造物を理解するために謎解きがしたいだろうか。
希記より。