ガラリと扉が開く。首の後ろをポリポリとかきながら店員の眼鏡は言った。
「お菓子箱6個入る段ボールはどれだっけ?」
ガサガサと唸りながら眼鏡は段ボールの棚を漁っているようだ。サイズはたくさん揃っている。お菓子1個だけ入る段ボールもあれば、30個キチキチに入る段ボールもあるのだ。30個入りに6個だけ入れたら空白が多すぎるし、逆に1個入りには当然6個は入らない。中間サイズも勿論ある。しかしながら、ピッタリ入る段ボールを見つけるのはなかなか面倒なのだった。
「誰だよぉ、30の下に20置いた奴は」
ブツブツ文句を言っている。誰かが倉庫内を荒らしてる。眼鏡は20サイズを引き抜いた。組み立てたらギリギリ6個入りそうであった。倉庫の扉は開いたまま。店員はガムテープで底を留めているようだ。鼻歌交じりに、お菓子箱を6個段ボールに詰めている音が聴こえる。
「ギリギリだなぁ。まぁ、入ってはいる」
扉の向かい側からそんな声が聞こえた。満足そうな顔で再度、倉庫の中に入ってくる眼鏡。緩衝材がパンパンに入っている段ボールに手を伸ばした。その段ボールの開け口は卍留めになっており、腕を突っ込んだら緩衝材がズボボボっと出てくるようになっている。まるで、繋がったウインナーのような。腸のような。半透明のビニールで包まれた空気は、まるで段ボールの内臓のようであった。
「おぉ、これはなんか、……腸みたい」
「何言ってんですか」
通りがかったのか、呆れたように別の店員が言った。眼鏡は「冗談ですがな」と笑った。
20サイズの段ボールにお菓子箱が6個。開いた隙間に空気でパンパンの緩衝材が入った。モコモコと、この空気がお菓子を守ってくれる。
キチキチの蓋を慎重に、丁寧にガムテープで封をして、送り状を貼って。眼鏡を付けた店員はまた倉庫にやってきた。手にはさっきの荷物を持っている。
「これでよし」
そう言って、店員は代車の上に荷物を置いた。こいつは今日旅に出る。明日くらいには届け先に着くのだろう。
毎日少しずつ減っていく空の段ボール。奴らはいつか旅に出る。倉庫はいつも静かだ。いつ出れるのか。あの扉の向かい側に行ってみたいものだと私は思った。足元を小さな蜘蛛が横切る。これはとある倉庫の話であった。