『恋は盲目』


とはよく言ったもので、老若男女問わず一度誰かに特別な感情を抱いてしまうと、その想いが止まらなくなってしまうことがある。



『恋と言う名の翼を借りて、この壁を飛び越えてきました』

ウィリアム・シェイクスピア
『ロミオとジュリエット』より



その愛が深ければ深いほど、人は倫理や道徳の壁を飛び越えて、盲目的に突き進んでゆくことができる。


人間の熱く激しい情念の前には、社会の秩序や善悪正誤のものさしなど、全く意味をなさなくなる時もあるのだ。


そのことを踏まえて、以下の文章を読んで頂きたい。


……………………


3月某日 午後4時


半乾きの水着を手に、私が2日連続で颯爽とやってきたのは

そう……


K市民プール!







数ヵ月に及ぶプール通いは、ここに来てようやくその実を結んだ。


長きに渡る調査の末、ついに私は
いつ、何時から、誰がスイミングレッスン
をするのか……


ほぼ把握したのだから



だから『今日』も来た。

かの若きイケメンインストラクターの美しき肉体を愛でるために。


入館券を購入し、受付に出す。


源氏の君『あ!こんにちはー!』



ビンゴ!


『いつもありがとうございます
   いってらっしゃいませ~』


なんて爽やかな笑顔……

……もういっそ…あなたが私を

昇天

させてはくれないだろうか……。


そんな事を考えながら、私はいつものように1コースでウォーキングを始めた。





……む?!

前方2時の方向に人影多数あり!!

来たか、チビッ子スイマー共!

そして……



『走るな走るな~!はい、すぐ並ぶ!』



しなやかな裸体をさらけ出した


我が源氏の君




…あぁ…いつ見ても美しい身体…

その長い二の腕で絞め殺されてもいい…

でもその前に一度抱き締めて欲しい…




『タクヤー!
   今日はばた足で25mがんばるぞ~



ほう。
今日のマンツーマン指導はタクヤか。

必要以上に彼に触れられるのは癪に障るが、まぁいい。

せいぜい頑張るがいいさ。

タクヤ、所詮お前と先生の関係は
『25mばた足』止まりだ。



彼と私のマンツーマンレッスンは


200mダッシュ並の運動


になることをお前は知らない。

まだお前には知る必要がない。




ちゃんと先生の方見てー!
   息継ぎしっかりー



ふっ……
ゴーグル越し一方向にしか彼を見ることが出来ないとは可哀想に……



なにせ、私が彼を眺める角度、位置…

そして息継ぎの早さ、深さは完全に


彼の好み次第


なのだ。

まぁお前にはまだまだ早い話だ。




『じゃあ先生が腰持つから体をまっすぐ伸ばして~脚を早く動かす!そう!』




…腰だと?!…タクヤ貴様何を……!



『ビート版まっすぐ!膝曲げない!』



…ふん…まぁいいだろう…

腰でも腹でも、クレーンゲームのように持ち上げてもらえ。

お前にはそれがお似合いだ。



なにせ先生が私の腰を………おっと!

これ以上は


自粛させてもらうぜ


ご想像にお任せだ!!



『はい、もっかい行くよー』


タクヤ…

お前はいいな……タクヤ……

そう何度も何度も、矢継ぎ早に繰り返すことができるのだからな……

私と先生のレッスンは一回一回のインターバルが最低でも…


いや……やはりこれも


自粛しておこう




……おや、気付けばもう1時間が経過しようとしている。

タクヤ、今日はこの辺で勘弁しておいてやる。

だが勘違いするな。

お前がいかに長く先生のレッスンを受けようとも……



最後に勝つのは
この私だ!