いちばんの気に入った、桃色の桜。柔らかな花びらと、鮮やかなその色合い。
土曜日。
看病してくれる家族が一緒にいてくれるという安心感からか、体調はいい。
あかるい空。
天気予報が、初夏のような気温を伝えているので、せっかくなので外に出る。
でもまだ、少し身体が弱っているので、車で運ばれて、上野公園まで。
ちょうど咲き始めの、うつくしい桜の姿を愛でる。
桜の姿は、ほんとうに不思議だ。
北海道育ちの私には、実は、文学の中のうつくしいもの、というくらいの認識で、あまり馴染みのない花だった。春の花、と言えば、ライラックの方を連想するくらいに。
ほんとうに、枯れ木のような姿に、溢れんばかりに花をつける、その潔さ。
まだ蕾の、濃い桃色とのコントラストを楽しみながら、ふわふわと柔らかに、でも圧倒的な存在感で咲き誇るこの花を、畏敬の念をもって眺める。
桜の樹の下で、人は気が狂う、と言ったのはどの作家だったか。
淡い色の種類でも、蕾のその先は、濃い桃色に染まっている。
そこがとてもかわいらしい。
空のあかるい青、淡桃の桜の花びらのコントラスト。
上野の森の公園は、大変な人出で、歩くのもやっとなほど。
そこにあのブルーのシートを敷いて、お弁当を広げて、お花見をしている人たちもあって、それも少し羨ましい。
でも、私達はめいめいにカメラのファインダーを覗いて、思う存分に真剣に写真を撮る。
久しぶりに、とても楽しい。
池の端には、柳の木が植わっている。
その緑に映える色合いも、柔らかにうつくしい。
彼は一生懸命鴨の写真を撮っていて、私達ふたりは、一緒に撮っていても、見ているものがいろいろ違っておもしろい。
ソメイヨシノは、淡い淡い色合い。
散り際の、あの雪のような姿が、私は好きだ。
まだ咲き始めでも、ぽとん、と花ごと落ちているものもあって、そういう散り方もするのだということを知る。ちょうど、椿の花みたいに。
風が、少し強いせいか。
桜をたっぷりと堪能して、上野の森美術館に立ち寄る。
The Vision of Contemporary Art (VOCA)展を観る。
山本もえ美さんの「植物教会の授業」という作品に、私は、とても心惹かれた。
VOCA賞を受賞された、田中望さんの描いた、鯨の葬送「ものおくり」もとてもうつくしかった。
上野はいつも、絵画が観られるからとても好きだ。