木川秀子の使命
なぜ私、木川秀子が「感謝の気持ち」を使命として掲げているのか、その理由を聞いてください。
なぜ私、木川秀子が「感謝の気持ち」を使命として掲げているのか、その理由を聞いてください。
社会保険労務士事務所を始めて10年目の1998年、私にも気心の分かり合える15歳年下の従業員ができました。気配りがあって秘書役が上手で、私は助けられました。
そんな息の合ったサポートのおかげで、お客様から信頼され繰り返し相談を頂いたり、千葉県社会保険労務士会北総支部の支部長職もさせて頂きました。
(社)千葉県雇用開発協会から高年齢者雇用アドバイザーとして認定され、定年延長、満65歳までの希望者全員の継続雇用制度の推進という、日本の少子高齢化を担うやりがいのある仕事にも就くことができました。
300人、時には1000人を超えるような大きな会社に訪問できる、貴重な経験ができました。
それから10年経ったある日、その彼女が退職する事になりました。お義父さんが亡くなり、農作業もあるのでお義母さん一人置いて勤めに出られないという事です。
「忙しいだろうけど私が書類でわからないで困っているときは助けに来てね。来た日には時給も上げて1時間でも2時間でも交通費は別に払うから来れる日は来てね」
私のお願いに彼女は、快く引き受けてくれ、わずかな時間でしたが彼女は合間をみて来てくれました。
ところが、お盆が過ぎ稲刈りが終わっても、待っても待っても来なくなってしまいました。
「おかしいなあ彼女、来ないなあ・・・」と思っていたある日、教えてもらいたい事があって携帯にかけると、番号が変わって繋がりませんでした。
ほとほと困り家にかけてみると旦那さんがいて、伝えてくれてやっと彼女が事務所に来て会うことが出来ました。
喜んだのもつかの間、「先生には教えちゃいますけど、実はヘルパーの資格を取りに学校に通っているんです!」と、ニコニコして言うのです。
「学校へ通ってるうー?!」私は寝耳に水でした。だって私は、いつ来てくれるか 来てくれるかと待っていたのですから。
「少しでもいいから手伝って」と懇願して、振込みまでしていた私はなんだったんだ。
打ち明けられた後は、もう冷静ではいられませんでした。
「お義母さん一人にできないと言っておきながら、一人にしているじゃないか!」
「私の所へ来るのはダメで、学校ならいいのか!」私は心の中で叫びました。
なんと思われようと、最後に一言だけは言わせてもらおうと「よく、おばあさん一人にするのを旦那が承知したわねえ」と言ってしまいました。
彼女は「ええ、おかげさまで家族が理解してくれて…」と言い、円満そうなこの一言で私は怒りが絶頂に達してしまいました。
「あの頃は家族の理解なんかなかったよね、私のこと気の毒と思わないの!」私は言いました。すると彼女は困って「だから言おうか迷ったんですけど、やっぱり先生には本当の事を言いたくて…。
本当にお世話になったのに、申し訳ないと思っています」と言いました。
「そんな言い訳なんか聞きたくない、申し訳ないと思うなら黙っていて欲しい」と思ってしまいました。
その晩は情けなくて、悔しくて、裏切られたようで眠れませんでした。
仕事中、車を運転しながら次の日もその次の日も、なぜなぜと、手伝いに来て貰えなかった理由を考えました。
だんだん冷静になると「優しい彼女だもの、何かきっと私の方から傷つくことを言ったのかもしれない」少し反省しようとしている自分になれました。
そして、ふっとある事に思い当たりました。
彼女がたまたま手伝いに来てくれた日のことです。彼女はいつものように愛想よく電話口に出てくれました。
ところがその電話は「○○さんが労災事故になると言った」というお客さまからのクレーム。
私は「普段いない人が電話に出るからややこしくなっちゃうんで、電話に出なくていいから」と彼女に言い放しました。
そのとき、彼女が「先生は私の電話の出方がいやなんですよね・・・」と言ったことに対して「ええ、そうよ」とそっけなく言ってしまいました。
彼女は「わかりました・・・」と悔しそうに頬を紅潮させた表情をしています。しかし彼女は平静を装い妙に明るく振舞っていました。
このできごとを思い出したのです。
「彼女にひどいことをしてしまった」とは気づいたのですが、一方の自分は「悪くない」と言いたがっている頑固な自分に気付きました。
「だって私はこんなに色々面倒を見てきて良くしてあげたんです。どこの会社がこんなに育児に介護に休む人を面倒見てくれますか?私はこんなに大変だったんです。」と私のことを褒めて認めて欲しいと思っている自分がいることに気付きびっくりしました。
そこで思いました。もう、責めるのはよそう、彼女も10年間よく会社の為にやってくれた。
「もう『私があなたのことを面倒を見てあげてきたんだよ』というようなことを思うのは、この日限りでやめよう」私はこう思いました。
「ありがとう、悪いわね。退職したのに会社に出てきてくれて。いつも明るく電話に出てくれたのよね。感謝していますよ」
彼女にまず「ありがとう」と感謝の気持ちを言ってあげれば良かったのだと気付きました。
彼女とのことがお客さまとの関わり方についても考えさせられました。
お客さまに「社員の方に対しても感謝の気持ちは大切ですよ」社員との関わり方をアドバイスしている私が、自分の会社の従業員にはまったく反対のことをしていたのです。
これではお客さまに本当に喜んでいただける仕事はできません。
彼女との体験から「感謝の気持ち」 を私の使命として掲げることにしました。
そこで私は、反省しようと思ってから、今いる従業員に感謝の気持ちを言うようにしました。いまどんなことを思っているのか黙って1時間聴くことにしました。
こんなに人の話を黙って聞くことが苦しいことか思い知りました。ということは全くやってなかったのです。
全部聴き終ったとき、従業員に対して自然に「たくさん話してくれてありがとうございました。」と言えました。
実は意思疎通ができなかったときは、経営者なんてつらいことばかり、みんなやめてもらって一人でやった方が気が楽だと思ったんです。
お客様にも、従業員にも、取引先の方々にも、出会う人ひとり一人に「感謝の気持ち」 忘れるこのないよう、この言葉を私の命の使い方とし掲げていきます。
木川秀子