2009年からYouTubeに消されてはアップされ続ける『ザ・ノンフィクション』史上1番の傑作『漂流家族』。
前篇後篇2回放送されただけの、普通一般には評価されていないテレビ番組なのに、16年もの長い間、ネット界だけで人気を保ち続けている。
見れるうちに見ておいたほうがいい。見れない時はかなり長い間見れない。
漂流大家族竹下家のその後を知りたい! という熱望が16年間止んだことがない。特に魅力の大元であるパパとママの消息が全くわからない。そこがさらなる飽くなき魅力となっている。何もかもが奇跡的に素晴らしい名作だ。
●前篇と後篇セット
●『漂流家族』とは?
人気番組『ザ・ノンフィクション』で2009年、2週にわたって放送された8人の大家族竹下家のドキュメンタリー。竹下家の9年間が記録されている。放送直後からネットがざわつき、竹下家のファンが湧き起こっていった。かなりアナーキーな家族なので、一般ドキュメンタリー番組としての評価はないが、ネット上では『ザ・ノンフィクション』史上1番の傑作という声が16年間多いまま維持され、それでも一般には無視され続けている。
その後どうなったのか続きを見たくて、待ち望まれ、何年も待っていたら、2019年『漂流家族』が『ザ・ノンフィクション』で再び放送! 続きかと思ったら、竹下さんではなく、元プロレスラーの別の漂流している大家族で、竹下家の鬼気迫る迫力に足元にも及ばなかった。レベルが違うというか次元が違った。やはり竹下さんはすごい方だ。
竹下家を求めて以後全てのザ・ノンフィクションを欠かさず見たが、竹下版漂流家族にかなう『ザ・ンフィクション』はない。
竹下家のその後を『ザ・ノンフィクション』が撮影しているという情報は皆無だ。
練馬のスナックで知り合ったお父さんとお母さん、娘6人の8人家族が北海道の過疎問題を抱えている村が募集した移住制度に応募し、地元の親切な牧場経営者に30年2000万円のローンの連帯保証人になってもらい新築の一軒家を手に入れたが、パパもママも仕事を辞めてしまい、埼玉県に帰った。ローンが払えなくなり、当然ローンの請求は連帯保証人の桜庭さんのもとにいく。桜庭さんは竹下さんに電話するが、竹下さんは出ない。
困ってしまって怒った桜庭さんは埼玉まで追いかけてきて、かなり強めの拳骨を竹下パパに食らわす。今では放送できないほどの強い拳骨だ。ゴツンと鈍い音が鳴り恐ろしい。ローンの支払い残り1800万円の怒りと不安のこもった、親切で純朴な人の怒りに満ちた拳骨だった。
結局北海道の家は、近所にもう一軒夜逃げそのままの中古の家なんて絶対に全然欲しくもなんともない桜庭さんが1800万円のローンを払い続けることでおさまった。たんたんとしたナレーションで解説しているが、視聴者は思わず「ヒエー」と声が出てしまう。だって桜庭さんは竹下さんと親戚でもなんでもない全くの他人だし、桜庭さんには自身の牛舎の借金が1億円近くあるのでこれで借金は1億1800万円だ。いくらなんでもひど過ぎる。桜庭さんのような親切な人が世の中に存在するということは聞くことがあるが、ここまでしっかりと悪夢の一部始終が映像作品に記録されているのを見ることのできる機会はない。これは『ナニワ金融道』のようにフィクション作品ではなく、ザ・ノンフィクションなのだ。竹下さんにような人には桜庭さんのような人が必要だし、ちゃんと出会うことができるような運命になっている。
この作品は見どころが多過ぎる。3度見るに値する。全編一瞬も見逃せない。時間が経つとまた戻ってきてしまう。どうしても気になって2年に一度は竹下さんの消息をネットで調べてしまう。
●職場で問題が起きてパパは怒って意見を言うが、トラブルの原因はパパだった。
●家庭内ではいつも怒号が飛び、隣の家からも怒号が飛んでくるが、怒って、ママをにらみつけ、ママを殴る寸前までいくパパの青いTシャツでは『ゲゲゲの鬼太郎』の目玉おやじがのん気に茶碗で風呂につかっている。
●ママがオラオラ口調。大変にお世話になっている神様のような1800万円のローンの連帯保証人の桜庭さんに注意されると毎回いちいち言い返す。「かっこいい話ばかりすんな!」「かっこいい話じゃない」「もっと現実を見れ」「見てます」「あんたずいぶん冷静な話し方するよな。俺に1800万のローンがかかってくるんだぞ今」「冷静とかじゃないですよ全然」桜庭さんの言葉に対応してママも北海道なまりで言い返すのも桜庭さんをおちょくっていてしゃくにさわる。
「荷物まとめろ! オラァ!」
●パパも娘も口汚い。
●みんなの体が巨大化していく。
●桜庭さんは口に出さないが、(とんでもないのに引っかかっちゃたぞ)という桜庭さんの心の声が何度も聞こえる。桜庭さんは『漂流家族』放送で唯一得した人で、『漂流家族』を見てしまった人の中に、桜庭さんを信頼できない人なんて一人もいない。桜庭さんは口に出さないが、家にテレビカメラが入る度、(またお前らも俺の災難を撮影しにきたのか。9年間も)という桜庭さんの声が聞こえる。桜庭さんが怒る度、顔が赤くなり、おさえきれない怒りが手のオーバーアクションとして現れ、竹下夫婦を理解することが困難であることの混乱と、血圧上昇によりパニックに陥っているのがよくわかる。
●パパが文句ばかり言い、常にキレている。元旦に娘が豚の角煮を作っていてこがしただけで、
「捨てちゃえよ。食えるわけないんだからよ、馬鹿野郎」
と言って娘を泣かす。さらにシクシク泣いてしまっている娘に近寄っていき煙草を吸いながら棚を蹴飛ばし、
「泣いてんじゃねーよ!」
とわめきしつこい。
●正社員にこだわる。お金に困っても、娘の就職は正社員採用以外は決して認めない。
●金に困っているのに見ているこちらが怖くなるほど金遣いが荒い。金に困っていない普通の家庭よりもバンバン買い物をして、見ているこちらが「大丈夫なのか」と思うほど不安になる。
●パパもママも煙草を吸いながら切実にお金に困っている話をする。
●視聴者を刺激するような問題発言が多い。(ファンの間ではそれらは名言に熟成していく)
●明るいナレーション原稿と恐ろしいほど深刻な現実映像の世界感が一致せず、ナレーションの山本太郎と原日出子の声が怒りで震えているように聞こえてくる。山本太郎も原日出子もこんな原稿どんな声でどう読んでいいのかもわからないでいるようだ。最初からずっと一度も安定せずにノンストップで深刻なのに、ナレーションではだんだん深刻になってしまうようなストーリーにしているが、無理がある。ナレーション原稿と現実が違う。どうやってもいい話にもっていけていない。
●はっきりいってしまえば、9年間、また仕事を辞めてまた仕事を探す繰り返しだけを1時間半にまとめているので、同じような場面が繰り返され、時系列とストーリー展開を覚えられない構成になっている。
●深刻な事態なのに、BGMが間違えたようにのん気だったり明るかったり勇ましい。音楽がずーーっと明らかに変。BGMでヤバい映像を中和しようとして失敗している。おそらく編集している人が怒りで平常心を失い、BGMのピックアップをどうしていいのかわからなくなってしまった。適当ともいえるピックアップで「もうこれでいいや!」という投げやりな態度が耳に伝わってくる。
本当にハチャメチャで目が離せないのに、番組意図としては苦労大家族のいい話に演出していて、BGMはおだやかで優しいが映像は恐ろしく、見ているだけでこちらの将来まで不安にさせる。
ナレータをつとめた山本太郎と原日出子の声が怒りで震えているように聞こえるのは、竹下家の後先を考えない無計画で無責任な行動と、ナレーション原稿のやさしい世界観が遠く離れ過ぎているからだ。
見ているこちらにもいちいちリアルな怒りが湧き起こり、見終わると、怒りを誰かに伝えなければおさまらない。そして誰かに話しているうちに怒りがおさまり、やがて熟成すると感動に変わり、もう一度落ち着いて『漂流家族』をじっくりと見返してしまい、この家族に魅了されていく。
●放送翌日から一部が騒然
2009年に放送された翌日、私は会社でみんなに「昨日『漂流家族』見た?」と聞いて回ったが、見ている人はいなかった。強く襲いかかっている気持ちのやり場がないから、インターネットで検索してみると、もうインターネット内では『漂流家族』への怒りの感想が飛び交っていた。
「本当にむかつきました」「この不安な気持ちをどうすればいいんですか?」という声が多く、それぞれ鼻息が荒くトラウマになっているのが伝わってくる。みな同じ気持ちだった。みな日曜の2時に『漂流家族』を一人ぼっちで見てしまい、不安になり、どうしていいのかわからない一夜を乗り越えネットの掲示板に救いと共感を求めていた。
放送翌日にはもうすでに竹下さんへの尊敬は始まっていた。最初はみんな怒っていたはずだったが、数年しても続編熱望がおさまらず、竹下家は伝説になった。初めて見た時の血圧上昇の体感が忘れられず『漂流家族』に戻ってきてしまう。『漂流家族』級のノンフィクション番組を求めて手当たり次第にドキュメンタリー番組やドキュメント映画を見た。田原総一朗の昔のドキュメンタリー番組がDVDで復活し、ちょうどドキュメンタリブームがやってきた。
竹下さんに比べたら『ザ・ノンフィクション』はどれも退屈になってしまった。
竹下さんに比べたら他の大家族なんてスリルがなくて見ていられない。
●パパとママの消息は誰も知らない
続きが知りたくてたまらないからネットで竹下家を調べる人が続出し続けている。大家族だからSNSをやる娘もいる。しかしどれを辿っていっても『ザ・ノンフィクション』で見た竹下家への怒りは湧いてこない。肝腎なパパとママの情報がいっさいない。『漂流家族』を繰り返し見ているとわかるが、『漂流家族』の魅力はパパとママの魅力だ。パパとママさえいなければ竹下家は普通の家族になってしまう。
全てをテレビ画面にさらけ出してくれた竹下軍団の勇気に感謝する。竹下家を見つけ出してきて9年間も撮影し続けた『ザ・ノンフィクション』スタッフの選択眼も恐ろしい。
偶然に見た『漂流家族』だったからもちろんビデオ録画していなかった。私はそれまであまり『ザ・ノンフィクション』を見たことがなかったが、『漂流家族』を見た翌週から、竹下家を求め、その後の『ザ・ノンフィクション』を全て予約録画を絶対に忘れないように確かめながら欠かさず、10年以上、1回も見逃さずに全て熟視し続けてしまった。『漂流家族』がダントツナンバー1で、ナンバー2など考えることもできない。
竹下家から出るオーラが強過ぎ、どんな演出もビリビリに破り捨てられてしまう。何をやっても不思議なテイストを醸し出し、他では決して見ることのできない傑作ドキュメンタリーになってしまった。
作ろうとして作ろうとした作品ではない奇跡の作品だ。
実は私は『ザ・ノンフィクション』のスタッフに話を聞く機会があり、2010年の時点で続きが撮影されていないことを知っていた。『漂流家族』が狙い通りの作品ならば続きが撮影されていたはずだ。スタッフたちは『漂流家族』について語ろうとしなかった。
※魅力にあふれる竹下夫婦の発言をもっと聞きたいし映像を見たい。ビックダディたちが大家族テレビ番組によって多くの仕事を得たように、竹下家もこの永久不滅の人気によって裕福になれたらファンとして本望だ。竹下家は、竹下家にしか見せることのできない本当に有意義な視聴時間を届けてくれた。
これは100年後の人類にも衝撃を与える真に評価されるべき奇跡の名作ドキュメンタリー作品だ。

















































