今まで点検業者の「トンデモ論」をネタにしてきたが、ネタが尽きてきたので最後のまとめに入る。

 現状、法定点検制度に対応した蓄圧式消火器の現実的な維持管理方法として、以下の2つがある。

【a】6年目になったら全交換する。
【b】6年目から10%の本数を「抜取り」で機能点検する。内半分を放射試験する。消火器は点検後廃棄し、新品を補充する。

 機能点検後、再充填は手間が掛かり過ぎる、費用が掛かり過ぎるので現実的ではない。
【a】でも、【b】でも設備の維持管理方法として妥当と考える。

 例えば100本を超えるくらいの本数があって、点検費用の削減を要求されたらどうするか考えてみた。
・6年目から外観点検で状態の悪い5%の消火器を放射試験して、合格であれば内1~2本を分解し容器内面を点検する。
・点検後の消火器は廃棄して、新品を補充する。
・不良が出た場合、原因調査のために分解し全数点検(交換)が必要か判断する。
・11年目に廃棄する残りの50%の消火器は消防訓練で使用して、正常に放射できるか確認する。
・故障率5~10%は許容する。故障率を周知する。
・火災発生時は1人で1本の消火器で消火しようとしない、必ず周囲に助けを求める、消火活動に参加できる人は消火器を持って火元に集まることを教育する。
・「JIS Z 9015-1 第1部:ロットごとの検査に対するAQL指標型抜取検査方式」を参考にする。
・合格が続けば検査をゆるくする(抜取り本数を減らす)、不良が出たら検査を厳しくする(本数を増やす)。⇒PDCAサイクルで最適化する。
・抜取り本数の減らし方、増やし方は、上記JISの「切り替えルール」を参考にする。

 「点検の基準」として消防庁告示第14号、第24号があり、点検手順の詳細として「点検要領」消防予第557号がある。
 消防庁長官告示である「点検の基準」は順守しないと法令違反になるが、消防庁予防課長通知である「点検要領」はマニュアルのようなものなので順守しなくても違反にはならない。
 「点検の基準」は「義務」、「点検要領」にしか記載されていない内容は「任意」や「推奨」と言うことができる。
 「点検の基準」は抜取り本数や明確な手順を規定していないので、JISを参考に抜取り本数を最適化し、「点検要領」を参考に手順を決める(現行JISはISOにも準拠している)。

 実は消防計画で同じことを行った。
 「消防計画作成要領」にはとても実現できないような多くの内容が記載されていたが、消防法関係法令と紐づけできる部分を「義務」として残し、それ以外を「任意」、「推奨」と判断し削除して消防署へ提出した。
 「これでよいですか?」と聞かれたら「要領」に従うように説明するのが消防署員の仕事なので聞いても意味がない。
 「義務」と「任意」を切り分けて考えるというのは、法令に関わる仕事をする人は普段からやっていることである。

 このように考えれば「法定点検だから誰がやっても同じ」ではなく、点検作業者のスキルと実績データの蓄積で差が付くことになる(努力が結果に出るようになる)。
 適切な抜取り数を決めるためには、実績データが必要であり、データを多く持っている点検業者が断然有利となる。
 突き詰めていくと抜取り方式による機能点検は、健康な人は保険料が安く、不健康な人は保険料が高くなるリスク細分型保険と同じになる。
 検査で合格が続くということは品質が安定していることであり、品質が安定しているのであれば検査数を減らしてもよいという手順がJIS/ISO規格に入っている。

 「点検要領」を作った消防庁予防課は、点検が不足して被害を出してはいけないし、「トンデモ論」を信じていてスキルが低く知識もない点検業者もいるのだから、単純で過剰なくらいの点検手順でないと消火器を維持管理できないと判断したようにも見える。
 実際に会って話して実感しているが、指導する側の消防署員も機械の知識はない。
 「何も考えず書いてある通りにすれば誰でも結果が出せる」という意味で、マニュアルとしての「点検要領」は妥当と言える。


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