※大宮妄想小説です

オメガバース（α、β、Ω）のある世界線で生きている二人

お話の都合上、メンバーの年齢差やにのちゃんの家族構成（にのちゃんは大家族）、田舎育ちなど全て妄想

カップ入りの珈琲を両手に持って、すらりと背の高い男子学生がきょろきょろと辺りを見回している。

それに気づき、講義棟のラウンジのテーブルに座っていた和也は腰を浮かせて大きく手を振った。

「相葉くん！　こっち」

「おっ、そこか」

男子学生──同じ学部の一年生である相葉雅紀が足早に近づいてくる。

テーブルの向かい側に座った相葉から珈琲を受け取り、早速一口飲んだ。

「本当にブラックで良かったのか？　いつもはミルク入りだってのに」

「うん、平気」

大学で売っている珈琲はごく一般的なインスタントの味で、特別美味しくもないがまずくもない。

いまの和也にとってはどちらでも良かった。

カフェインが重要なのだ。

「今日はもう講義終わりだろ？　これ飲んだらどっか寄ってく？」

なんか飲み会やる奴らもいるらしいけど混ざる？　まだ間に合うかも、とそわそわし始めた相葉に、和也は首を振った。

「今日は病院に寄ることになってるんだ。飲み会、行くなら相葉くんだけ行ってきなよ」

えぇぇ、と相葉が情けない声を上げた。

寂しいこと言うなよ俺だけじゃ心細いだろぉと眉を八の字にして訴えている。

人懐こい笑顔を周囲に与える割に、この友人は妙に人見知りのところがあるのだ。

大学生活が始まって間もなく二週間が経つ。

なにもかも概ね順調だった。

こんなにも体調の良い日が続くのは数年ぶりで、これが大野のフェロモンの効果なのかと思うとその影響力に驚かされるばかりである。

今日は病院に定期検診を受けがてら松本とも面談することになっていたが、恐らく問題はないだろう。

相葉とは講義が始まった初日に友人になった。

講義の合間、薬を飲もうとしているところにたまたま通りかかった相葉が「具合が悪いなら無理すんなよ」と声を掛けてくれたのだ。

いや実は自分は未分化でフェロモンの調子のため──と和也が説明しかけたところで、相葉は慌てた様子で和也の口を塞ぎ、人気のない場所まで和也を引きずるようにして移動した。

「あのさ、その話、あんまり人前でしないほうがいいと思う。今どき第二性のことであからさまに差別する奴はいないと思うけど、中には悪意のある奴もいるかもしれないし……」

こんなこと気にしなきゃいけないのも変な話だけど、と相葉は言いづらそうに付け加えた。

言われれば確かにそうだ。

第二性について話をするとすれば、ここ最近は大野や松本といった自分の体調を理解してくれる人間ばかりだっためうっかり失念していた。

「ありがとう、気をつける。ええっと……名前──」

「相葉雅紀、そっちは？」

「俺は二宮和也。相葉くんっていい奴だね」

「そ、そんな褒めたからって何もでねえぞ！」

相葉は緩んだ顔を懸命に引き締めようとして妙な顔になっていたが、実際、和也に忠告などしなくとも相葉には何の損もなかったはずなのだ。

初対面だというのに、多少の気まずさを押してでも言いづらいことを教えてくれた、その気持ちがありがたかった。

以来、履修する講義が重なっていることもあり、和也と相葉は大学ではなんとなくいつも一緒にいる。

二人ほぼ同時に珈琲を飲み終え、どちらからともなくカップを手に立ち上がる。

講義棟を出たところで別れるのかと思いきや、相葉は病院の前まで一緒についてくるつもりらしい。

ふぁ、とこみ上げてきた欠伸を噛み殺し、和也はわずかに涙が滲んだ目尻をこすった。

「随分眠そうじゃん。体調平気なの？」

「うん、体調はすごくいいよ。ただちょっと寝不足で」

和也は上京初日の夜のことを思い出し渋面になった。

大野との初めての触れ合いの最中、和也はソファの上でぐっすりと眠り込んでしまったのである──大野と手を繋いだまま。

目覚めるともう朝で、和也は自室のベッドで横になっていた。

大野が運んでくれたのだろう。

すぐに飛び起き部屋を出て、朝食の準備をしていた大野に深く頭を下げて謝罪した。

「よく眠れて良かった」と笑った大野の顔を思い出し、和也は思わず胸を押さえた。

小さな子どもでもあるまいし、恥ずかしいにもほどがある。

いったいどんな格好で運ばれたのか、想像したくもない。

和也は反省し、けして同じ轍を踏まないよう、翌日からは触れ合いのあいだも緊張感を保つように心がけた。

ほんの十分程度のことだ。

おかげであれから同じ失敗はしていない。

ただ困ったことに、寝つきが悪いのだ。

触れ合いは大抵、寝る前に行っている──その触れ合いの最中に寝てしまわないよう気を張っているせいで、神経の緊張が解けないのが良くないのかもしれない。

そしてなにより、寝床に一人きりというのがいけない。

和也は五人きょうだいの長男である。

幼い弟妹と一緒に眠るのが当たり前だった和也にとって、一人きりで眠る夜は静かすぎた。

だがまさか十八にもなって、一人では寝られないなどと大野に言えるわけもない。

そういうわけで和也は夜な夜な虚しく寝返りばかり繰り返す羽目になり、今日も一日、必死に眠気と戦っていたのである。

続く

今回のお話は私の作品では珍しく嵐さん全員登場ありです。

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その林檎を食むときは ７

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