スマイルズ、「自助論」37頁より: | 真田清秋のブログ

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 天才を育てた「早朝の二時間」

 『「天才とは忍耐なり」と述べたフランスの博物学者ビュフォンは、自然科学の分野で偉大な業績を収めたが、若い頃はむしろ月並みな能力しかない凡人と見做されていた。実際彼は、物事を理解したり一度得た知識を思い出したりするのに時間がかかった。しかも無精な性質だった。裕福な家庭に生まれたせいもあって、そのままでは贅沢三昧の自堕落な生活にのめり込んでしまうのではないかとも思われた。だがビュフォンは、快楽に誘惑からきっぱりと身を引こうといち早く決意し、学問と自己修養に励んだのである。

 ビュフォンは、時間というものを限りある貴重な財産だと考えていたが、そのくせ早起きが出来ずに大切な時間をムダにしていた。彼はこの寝坊の悪習を断ち切ろうと決意し、早起きを試みるが決めた時間にはなかなか目が覚めない。そこで召使のジョゼフに手助けを求め、朝六時前に起こしてくれたら、その都度クラウン銀貨を一枚ずつ褒美にやろうと約束した。ところが初めのうち、ジュゼフが声をかけても気分がすぐれないからもう少し寝かせてくれと泣きついたり、安眠を邪魔されたと腹を立てたりで、さっぱり起きようとしない。そのくせ、ようやく目を覚ますと「どうして約束の時間に起こさなかったのか」と逆に小言をいう始末だった。

 主人の態度に腹を据えかねたジョゼフは、なんとしてもクラウン銀貨を手に入れようと決心した。その結果、主人の嘆願や「仕事を首にするぞというような脅しにも怯まず、無理矢理定刻には主人を寝床から引っ張り出すようになった。ある朝などは、ビュフォンがいつになくぐずっているので、業を煮やしやジョゼフは洗面器に冷たい水を汲み、それを寝巻きの背中から流し込んだ。その効果はテキメンだった。

 このような努力の甲斐あって、ビュフォンはようやく朝寝坊の習慣を克服できたのである。「博物学に関する私の著作のうちに、四巻は、召使のジョセフの力に負うところが大きい」としばしば彼は語っている。』

 

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