公認会計士の林總さんによれば、高額商品ほど利益率が高いので、多少リスクがあっても、そういう商売のほうが儲かると考える人が多いようですが、フレンチレストランのひらまつと、餃子の王将では、利益率は同じであり、むしろ、王将の方が在庫回転率が高いので、少ない資金でビジネスを回しており、さらに、王将は、人件費を手厚くすることで、従業員のモチベーションを高め、生産性を高めているということです。
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今回も、前回に引き続き、公認会計士の林總さんのご著書、「騙されない会計-会社の数字のウラを読む方法」を読んで、私が気づいたことについて述べたいと思います。前回は、林さんによれば、例えば、レストランのメニューに生ハムを加えるとき、生ハム1本を買って切り売りするときと、毎日、スライスされた生ハムを購入して販売したとき、両方の売上や利益が同じであれば、毎日、スライスされた生ハムを購入する方が在庫量が少なくてすむので、資金効率も高くなるということについて説明しました。
これに続いて、林さんは、餃子の王将は、薄利多売ビジネスでありながら、人件費を手厚くすることで生産性向上に成功しているということについて述べておられます。「『高額商品ほど利益率が高い、多少リスクがあっても、そういう商売のほうが儲かる』、と思っている人は意外に多いようです。(中略)例えば、皎子の王将とフレンチの名店ひらまつ。2社を『CVP図表』で分析してみると、完璧な相似形になります。
CVP図表とは、コスト(Cost)、売上高で表される成果のポリューム(Volume)、利益(Profit)の相関を表すグラフ。(中略)王将とひらまつを比較しますと、売上規模は、王将はひらまつの5.5倍、固定費は5.7倍です。また、限界利益率は約70%、営業利益率は11%と、両社ともに同じ値となっています。これをCVP図表に置き換えると、相似形になっていることが分かります。
つまり、この場合の王将とひらまつは、どちらもちゃんと儲かっている。なぜこういうことになるかというと、まず、売価に占める材料費の割合にほとんど差がないから。ひらまつのほうが様々な高級食材を使っているので粗利が大きいように思うかもしれませんが、実はどちらも3割。売上に占める人件費の割合も、王将は高い。イメージ的にはフレンチ・レストランのほうが給料はよさそうですよね。
しかし、王将は店舗ごとに売上目標が設定されていて、前年度比で利益がアップすると、増えた利益の何パーセントかはその店の従業員にポーナスでドーンと配ってしまう。頑張れば頑張った分だけ、従業員の稼ぎが増える仕組み。だから、意外と人件費率が高いのです。唯一異なるのは営業キャッシュフローです。営業キャッシュフローは、ひらまつより王将のほうがはるかに多い。
どういうことかというと、利益率はほとんど同じだけれど、前述の『資金の回転』が王将は圧倒的に速い。だから、王将のほうが営業キャッシュフローのプラスが格段に大きいのです。これはよい悪いではなく、宿命的な差です。ひらまつはフレンチ・レストランという特性上、ワインやチーズなど高価で回転の遅い食材もきちんとえておかなければならない。料理にしろ、空間にしろ、サービスにしろ、客に提供している文化が違うのですから当然です。
皎子の王将のすごいところは、薄利多売になりがちな業態であり、実際、儲かっていない店も多い中でひらまつ並みの利益率を確保し、その増分を従業員に還元しているというところ。シャンデリアやテープルクロスなどに経費がかからない分、人件費を厚くしているのです。これは、間違いなく従業員のモチベーションや生産性アップにつながります。(中略)価値創造に不可欠な人件費などをむやみに削ると、商売は立ち行かなくなる。そこに惜しまずお金をかけている、という点に注目すベきでしょう。
景気の影響や消費者の嗜好の変化など難しい側面もありますが、どんな商売でも、その中で最高のビジネススキームを作れば会社は必ず儲かるし、成長します。繰り返し述ベてきたように、会社経営において最も重要なのはキャッシュの回転。しかし、単に回転を速くすればいいというわけではなく、そのための仕掛け--商売のやり方を創り出さなければいけない。そこがアタマの使いどころであり、経営者の腕の見せ所です。
こういうことがわかってくると、自分の会社や部署が儲からなかったり、伸び悩んでいる原因がうっすらと見えてくるはずです。自分の会社は回転系なのか、それとも利幅系なのか。売上とコストと利益のバランスはどうなっているのか。キャッシュフローはどうなつているのか--。まずはそういうところをチエックして、自分なりに考えてみることが大切でしょう」(170ページ)
林さんの説明を少し補足すると、2009年3月期の王将の売上高は約548億円、営業利益は約61億円、ひらまつの2009年9月期の売上高は約100億円、営業利益は約11億円で、林さんが述べておられるように、両社とも利益率は約11%と同じです。一方、棚卸資産は、王将が約1.4億円であるのに対し、ひらまつは約10億円なので、王将の在庫回転率(原価)は約120回、ひらまつの在庫回転率(原価)は約4.6回と、圧倒的な差があります。すなわち、王将はひらまつの約46分の1の資金でビジネスを回しているということになります。
話を戻すと、かつての薄利多売ビジネスは、商品の価格を低くする代わりに、販売数量を増やすことで、まとまった利益を得る方法として認識されていたと思います。しかし、最近は、商品の価格が低くても、質の高い商品が増えてきたことから、王将のように、人件費を手厚くし、モチベーションを高めることで、差別化を図る必要性が出てきたと考えられます。
最近の例では、薄利多売ビジネスに分類される、ユニクロや丸亀製麺でも、給料を上昇するという報道がありました。繰り返しになりますが、「価値創造に不可欠な人件費などをむやみに削ると、商売は立ち行かなくなる」のであり、だからこそ、薄利多売ビジネスであっても、きちんと資金管理を行い、適切な経営判断を行わなければならなくなっているということに、経営者の方は注意しなければならないと、私は考えています。
2026/2/16 No.3351




