権利と義務なんて、そんなもん無いぞ。
東京は下町、墨田区。
その中にあって異彩を放つディープな歓楽街、錦糸町。
近年は同じ墨田区内のスカイツリー効果で、街全体が洗浄化されてきているが、
10年前の当時、アジア系の不良外国人が屯し、怪しい店が至るところにあった。
その一角にあるキャバクラで、部長が俺にそう言った。
今まで”権利と義務”という言葉に拘っていた俺には少し衝撃的だった。
躍らし踊らされ、組織とはそういうもんやでな。
今になって思えば、あの時部長が何を言いたかったのかは理解出来る。
だが当時の俺には、今までの価値観を否定されたかの様な衝撃が走っていた。
ある日の稼働終わり、決起という意味も込めて部長主導の下東京組の3人で錦糸町に飲みに行った時のことだ。
当時島田紳助がプロデュースをしていた男性ユニット、”羞恥心”の曲が店内に流れていた。
それこそ俺にも羞恥心の一つでも有れば良かったのだが、部を弁えず部長に反論をした。
お前のスピード感は、ただの若さからくる焦りでは無く、一種の強みなのかもしれんな。
”スピード感”という言葉が妙にしっくりきた。
今まで社長や専務からは”焦るな、まだ若いねんから”というニュアンスで宥められてきたが、
部長の”それ”はまた違ったものを含んでいた。
押上の自宅に戻り、ふとベランダに目をやる。
アサヒビール本社モニュメントが暗闇の中で光っていた。
もっと、自分を活かせるフィールドがあるのかもしれない。
心の中に新たな思いが去来していた。
続く。