年明けから正社員として働くようになった俺。

 

人生初めてのサラリーマンだ。

 

と、言っても既に契約社員として半年以上お世話になっている職場だったので特に何か変わったという訳ではない。

 

一つだけ変わった点を挙げるとすれば、キーリングの名刺を持たせてもらえるようになった事だろうか。

 

もちろん、今までも名刺は持っていたがそれはお客さんに渡す用のキャリアのロゴが入った代理店としての名刺だった。

 

いわゆる営業名刺というやつだ。

 

今回のそれとは持つ意味が違う。

 

会社名の入った名刺を持つということは会社の看板を背負うことだった。

 

一歩外に出たら責任が伴う。

 

それは今までも同じだったのかもしれないが、俺の中では今回は意味合いが違った。

 

正直な話、扱う商材は何でもよかった。

 

何をやるかよりも、誰とやるか。

 

この会社の一員としてようやく認められたような気がして、とても嬉しかった。

 

そんなある日、それは突然やって来た。

 

月末、稼働終わり。

 

いつもの様に専務に呼び出された俺は、会議室に通された。

 

来月から、東京に行って欲しいねんけ。

 
唐突に言われた。
 
東京の営業拠点立ち上げに抜擢されたのだ。

 

住み慣れた京都を離れるのは少し寂しい気がしたがそれよりも向上心の方が優った。

 

俺は二つ返事で快諾した。

 

数ヶ月、1年かかるかもしれんが立ち上げが成功したらお前に役職付けたるわ。

その言葉に、俺は俄然やる気が出た。
 
専務が言うには、東京では部長と、昔から付き合いのある名古屋の営業マン2人と俺の計3人で稼働する事になるという。
 
新拠点立ち上げという責任がある仕事だが、達成したら見返りも大きい。
 
俺は専務から渡された新幹線の”片道切符”を握りしめていた。
 
次帰京する時は凱旋だ!
 
その当時の俺は胸が高鳴っていた。
 
これが狂想曲の始まりだとも知らずに...。
 
続く。