その日は会社の忘年会だった。

 

稼働は午後までで終了し、一旦帰宅。

 

各々私服に着替えて会社に集合し、祇園にある系列の飲食店に向かった。

 

社長のKさんは京都では言わずと知れた有名人だ。

 

特に祇園界隈では知らない人が居ないほどの人だった。

 

見た目も男前で、昼夜問わず様々な事業で成功したカリスマ...。

 

立場上通信事業の営業現場には顔を出さない人だったが、以前たまたま昼にオフィスに戻った際お会いした事があった。

 

とは言え、会社のコーポレートサイトで写真を見た事はあっても直接お会いするのは初めてで...。

 

しかも社長はデニムにTシャツというラフな格好だった為、恥ずかしながら室長から紹介されるまで全く気づかなかった。

 

全く、情けない限りだ。

 

さて、系列の飲食店に集合した通信事業の営業メンバー。

 

さっそく専務が乾杯の音頭を取り、忘年会が始まった。

 

途中、四半期営業成績の表彰式があり、俺も表彰を受ける事になった。

 

その後何人かが表彰され、改めて歓談の時間になった。

 

お酒が進む中、突如専務が俺とヨースケを社長の隣の席に呼んだ。

 

いきなりのトップとの対面に俺は緊張してなかなか言葉が出てこない。

 

専務が俺とヨースケの紹介をすると、社長も名前は知って頂いているみたいだった。

 

お前らこの先の目標とかあるんか??

 

社長は親が子に進路を聞くような口調で質問をした。

 

早く組織に認められて役職に就きたいです!

 

俺はそう答えた。

 

当時の俺は役職に就く=周りから認められるという認識があり、とにかく肩書きが欲しかった。

 

その為だけに数字を追い、結果も出した。

 

まー、そう焦るな。その気持ちだけは受け取っておくわ。

 

社長は落ち着いた口調で宥めるようにそう言った。

 

さすが海千山千。

 

醸し出す雰囲気に、ずっしりとした説得力を帯びていた。

 

続く。