諸刃の剣、という言葉がある。
当時の俺は、会社にとってまさにそんな感じだった気がする。
当の本人は”取れば良いんでしょ?”というスタンスで、上げた受注の獲得内容までは全く気にしていなかった...
というか単に気が回っていなかったのだろう。
今思えば、とてつもなく危なっかしい営業マンだったと思う。
ただ、その危なっかしさも”やろうと思って出来る”事では無い。
それを分かっていたからこそ、当時の上司だった主任や専務も俺にそこまで諫言しなかった。
そう、例え上位代理店の社長と専務が雁首そろえて乗り込んで来たとしても...。
なんでコイツをクビにしないんですか!?
何故そうなったかの直接の経緯は忘れてしまったが、心当たりは山ほどあった。
営業先に張り付き過ぎて通報される、旦那不在時に強引に奥さんから契約を取り、後で旦那とモメる。
ベランダから落とされそうになったり、包丁出されたり。
ただインターネット回線を切り替えるだけの営業なのに、何故かそんな事になることも少なくなかった。
普通なら取らないであろう相手からも契約を取ったり。
結果、回線開通工事の当日になって業者が訪問したら客がいなかったり。
工事ドタキャンが散々続いたある日だったと思う。
上位店のナンバー1、2が揃って怒髪天の如く怒っていたのは。
コイツの契約、テンプラちゃうんすか!?
そんな事も言われたりした。
テンプラ、とは架空契約のこと。
英語圏の証券用語で架空注文や所得隠しのことを”フライ”と呼ぶことから派生しているのだと思う。
もちろん、そんな事はしていないのだが。
受注数もダントツに多かったが、その分キャンセル数も多かった。
ただのキャンセルならまだ良い。
けど、工事業者が訪問した上での工事ドタキャン...。
それは流石にまずかった。
代理店としてのキャリアに対するメンツにも関わる。
オタクさんはお客の管理もマトモに出来ないんですかね?
そう嫌味を言われてしまう。
いや、言われるだけならまだマシ。
そういった事例が重なるとペナルティとして代理店コードが停止されたり、最悪の場合剥奪まであった。
当時の上位店はその回線だけで年商10億近くの売り上げがあった。
つまり、月商も1億近く。
それが、下位店の、しかもどこの馬かも分からん若造のおイタのせいで1ヶ月も営業停止を食らってしまっては遺失利益は軽く1億近く。
確かに、そりゃ怒るわ。
社員さんの生活もかかってるわけだし。
だが、当時の俺はそんなこと御構い無しだった。
冒頭の通り”取れば良いんでしょ?”スタイル。
ややこしいお客についても、他の奴らが取れない相手を俺は取ってんだぜ?というスタンスだった。
そして、そんな俺を気に入ってくれていたのが当時の上司たち、特に専務、社長は何かあるたびに庇ってくれていた。
そのお陰で俺は仕事を続けられていたのだと思う。
実際にその時でも、俺は多少注意されただけで特に懲戒処分もなかった。
元々上位店の社長と専務が前職でウチの社長や専務たちの部下や同僚だった、という理由もあり普段の稼働からある程度融通が利いた。
とにかく、色んな人間模様があり、その上で働いた力学によって俺は難を逃れていた。
同僚や上司には本当に恵まれていたとつくづく思っている。
続く。