ある日の事だ。

 

ヨースケとカイジ君と俺、あと数人の営業マンの中で一時期流行り始めた”ブツ”があった。

朝鮮人参、だ。

 

発信元はヨースケで、粉末の朝鮮人参を飲むと疲れがポンっと吹っ飛んで、いわゆる”ハイ”状態になるという。

 

勿論、違法薬物などやった事はないが、当時は今よりもそういった類のコンプライアンスが低く、

 

現に”合法ハーブ”と書かれた看板は至る所にあった。

 

今でこそ大学生や観光客でごった返している木屋町や河原町だが、十数年以上前の当時は夜遅くになるにつれて、

 

色んな意味で”ハイ”になった女の子や、若いお兄ちゃんが”道端に転がって”嬌声を上げていた。

 

今では考えられないかもしれないが、当時の京都の繁華街は祭りでもないのに50m毎に機動隊の装甲車が待機しているなど、

 

とてつもなく混沌(カオス)な状態だった。

 

木屋町では一週間に一度は凶悪犯罪が起き、とてもじゃないが観光客や大学生が一人で歩けるような場所では無かったのだ。

 

それこそ女性が一人で歩くなどもっての他だった。

 

これはそんな時代の話。

 

そんな時代背景の中突如として出たヨースケの話に、俺たちは半信半疑ながら興味シンシンだった。

 

ヨースケの話では、彼の地元で”健康維持”の為に粉末の朝鮮人参を過剰に飲んだ老婆が”ハイ”になり過ぎて心臓発作で死んだという。

 

それこそ『な、アホな』であるが、頭が御花畑の当時若者だった俺たちは、

 

テンションが上がって、仕事終わりに急いで近所の怪しげな漢方薬局に行ったものだ。

 

結論から言うと全く”そういう”効果はなかったものの、プラシーボ効果というのだろうか、思い込みによる体感はあった気がした。

 

確かに、稼動前に飲んだり昼休憩に飲んだりすると、体の疲れが吹っ飛ぶような感覚になった。

 

そういう意味では、この試みも仕事のタメになったのかもしれない。

 

ただ、当時の俺たちは効果云々よりも、気が合う仕事仲間同士でアホをやる事自体がたまらなく楽しかったのだ。

 

続く。