お帰りなさい。

 

俺が”ただいま”と言うと、彼女が玄関口で帰りを迎えてくれた。

帰ったら待ってくれている人が居る。

ただそれだけの事が、とても嬉しかった。

件の”いわくつき”物件を出た俺は、新舞子のアパートを経て名古屋市内の高級住宅街に住所を移していた。

その街の一角にあるデザイナーズマンションの最上階が俺の家だ。

部屋に入るとリビングからは市街の夜景が見える。

近隣は高級住宅街なだけあって一軒家が多い、それも豪邸ばかりだ。

その中で一軒だけ、異様な見た目の3階建てのマンションがある。

他のどのデザイナーズマンションとも被らない。

それが俺の住んでいたマンションだった。

名古屋に住居してから、オフの日は会員になっている施設のゴルフ場で打ちっぱなしをする長閑な日々が続いていた。

ふと、携帯に目をやると着信があった。

着信の主は”大島”からだった。

 

大島は俺が名古屋に来て暫くたった時、SNSを通じて知り合った男だ。

お互いの知り合った目的はビジネスパートナー探しであり、大島とは同い年という事もありすぐ話が合った。

今思うと、話をお互い合わせていただけなのかもしれないが、意気投合するのに時間はかからなかった。

電話をかけ直すと、次の打ち合わせ日時をいつにするか?という要件だった。

当時俺と大島は”あるプロジェクト”を秘密裏に進めていた。

それ以外にも大島には件のキャリアショップ営業要員を紹介してもらったりなど、色々と助けられていた面もあり、

知り合って半年も経たない仲ではあったが、信用をしていた。

現に口も硬い男で、実行力もあった。

打ち合わせ当日、お決まりの場所となっている栄の某ホテル2階のラウンジに行くと大島が先に着席していた。

そして開口一番に”いよいよですね”と大島は俺に言った。

俺は無言で頷いた、僅かばかりの笑みを浮かべて…。

どうやら、この長閑な日々に終わりを告げる日も近いようだ。

 

続く。