母は、苦しまずに逝ったんだと、少し救われた気持ちで、母のもとに帰ると、今朝僕が病院に行って居る間、母を見ててくれる様に頼んでおいた姉の他に、近所に住む、母の書道会1番弟子でもあった、河村さん(仮称)ご夫妻が見えていた。

「突然のことで、ショックだったでしょ?何でもお手伝いさせて下さいね。」

「ありがとうございます。死体検案書を頂きに行って来ました。突然心臓が止まり、母は苦しむ事なく逝ったとのことで、唯一救われた気持ちになりました。」

「(お手伝いの)お申し出はありがたいのですが、母の意思でもあり、僕が喪主となり、家族と母の姉弟妹のみの家族葬で考えてます。火葬場の都合等で、日程等何も決まって無いのです。」

姉に向かって

「未だ、日程や方法等何も決まって無いのに、母のことを言いふらさないで欲しい。」

「河村さんには、お別れ戴く時を作れる様に、決まったら連絡します。」


そこまで話した時、少し慌てた様子でお弟子さんの旦那様が立ち上がり、「お線香だけあげさせて頂き、失礼しよう」と。流石、此方が取り込み中である事を察してくれた様だ。


どうぞ、と母の元に行くと、枕元に香典が置いてあった。古藤(仮称)と書いてある。離婚した姉が付き合っている彼氏だ。

僕が居ない隙に、彼に母のお参りをさせたのだ。

母の気持ちも知らずにだ。母は、近くに住む姉が面倒を見てくれないのは、彼のせいだ、と恨み節だったのだ。

僕はそれをすかさず手に取り、姉に渡した。

「これは、姉貴が保管してて」


かなりムッとした顔だった。

その日の夜、姉から「あんた喪主なんだから、恥ずかしく無い様に、ちゃんとやりなさいよ」


こいつっ、何も分かってない。世間知らずも甚だしい。

母の意思である家族葬の意図は、喪主となる僕が母の書道会関係者対応等、大変苦労するだろう対応から解放してあげたいとの、母親として息子への愛情からなのに。

だから、僕は、葬儀は身内だけで行うが、お別れに来られる方には、今のうちに平服で着て欲しいと考えていて、それを葬儀屋さんと姉には伝えてある。家族葬で弔問香典辞退と言えば、常識ある方なら察するはず。と補足説明を加えてある。

だから、母の枕元に香典があると、お別れに来られた方々に気を遣わせてしまうのを避けたかったのだ。

この事が、理解出来ないアホ姉らしい。


僕だって、母は書家として偉大で社会的地位もあり、姉が母の為、良かれと思って言いふらして居ることくらいわかってる。

でも、反面、喪主の仕事をどんどん増やしておいて、後始末は喪主が全てやりなさいよ、と押し付けるだけで、姉は何も手伝わない。

結局は姉自身の為に、僕が犠牲になるのだ。現に姉は、一度僕にそう言ったし、現に何も僕の助けになる事は、一切やろうとしない。

それどころか、喪主に相談無く、勝手にいろんな方に連絡し、僕から仕入れた母の情報をあたかも自分が見たかの様に説明し、通夜にも来てくれるならどうぞと、好き勝手な事を話して居る様だ。


モンスターには、近づきたくも無いのに、母のことなので、どうしようもない。

胃がキリキリして来た。


続く