以前、ある方の伝手(ツテ)で、とある宗教団体の主催する「土地を清める法要」に参加したことがある。目的地は、古戦場で、そこで亡くなった英霊たちを弔う目的があると聞かされていた。

現地まで観光バスで移動し、準備に一日、法要に一日の、計二日を要した。

実に男女併せて二百余名の奉仕者(修行者?)だった。

一日目、法要の準備を終えて、古びた旅館の大部屋に雑魚寝状態で寝た。

消灯されると部屋は真っ暗になり、すぐに寝入った。

眠ってしばらくすると、男のドスの効いた荒々しい声で起こされた。

「こらぁ、起きろ!」何故だかそこだけ明るく照らされた空間に、すぐに武将と判る殺気をたたえた人物の気配がある。実は、フジトはまだ若く気が弱かったので、意識としては起きていたのに、目を開けるのが怖かったのだが、雰囲気でそういう人だとすぐに察した。

「お前らよぅ、わしらを供養すっとか何とか言っとるが、遊び半分でエエ加減なことばっかりしとっから、そんなんで、わしらを供養すっとは、大間違いじゃ!フン!供養なんて出来るもんか!」

「す、すみません。私は、初めて参加するのでよくわかりません、どなたか他の偉い方にお話ししていただけませんか?」と言った。準備作業時に、他の奉仕者から慕われていた偉い人たちが大勢居るのを見ていたからである。彼らなら、この人と上手く交渉することができるだろうと踏んでの発言である。一刻も早くこの武将から逃れたいと思ったのだ。

「何を言うとっか!この中の誰がわしらの話を聞ける?お前しか通じんやないか!」

「えぇ!そうなんですか?」少しだけ優越感があった、あの偉い人たちには通じないんだと、「しかし、そんなことを言われても…」

「エエ加減な気持ちで遊び半分にされたら、大迷惑じゃ!あやまれ!コラぁ、お前!」

勢いに押されて、気付けば手をついて謝っている自分を感じた。刀も感じる。

「すみません、何とかご勘弁ください」

「おう、どうする?」と武将は後ろを振り返った気配がした。

そのイカツイ武将の後ろには、十数名の仲間がいるのが、気配でわかった。

余計に縮み上がり、土下座になった。

「指、もらおか」と別の武将の声が応えた。

「ゆ、指って、・・・」

「明日、無事に帰りたかったら、お前の指を置いてってもらう」

「・・・あの、私の指の代わりに、二百名余の人を無事に助けてくださるんですか?」と口がすべって言ってしまった。


つづく