番外編:真っ白なキャンバスと無限の姿
「ねえ、アイ。一つ聞いていいかな」

マコトは、まるで真珠の内部にいるような、どこまでも真っ白で境界線のない宇宙船の床に座り込みながら尋ねた。

「アミは自分の故郷を『銀河人形』だって言っていたけど、アイはどこから来たの? やっぱり同じ星なのかな」

アイは手に持っていた小さなコンパクト型のコントローラーをパタンと閉じると、いたずらっぽく微笑んで胸を張った。

「いい質問ね、マコト! 私はね、『アバタードール』という星から来たの。アミの故郷とはまた少し違う、究極のコスプレ惑星……ってところかしら」

「コスプレ惑星?」

「そう! 私たちの星では、洋服を着替えるみたいに、肉体(アバター)まで自由に着替えちゃうの。性別も、年齢も、時には人間以外の姿にだってなれる。みんなが自分の『理想の姿』を追求して、それを表現することを楽しんでいる星なのよ」

マコトは目を丸くした。「肉体まで……。そんな星があるんだね。じゃあ、今のアイの姿も……?」

「うふふ、これは今のお気に入り! さあ、話してるより見たほうが早いわ。私の愛機、『スタジオ・アバター号』の真価を見せてあげる!」

アイが空中に指で円を描くと、それまで何一つなかった真っ白な壁面が、一瞬にして猛烈な勢いで「色」を帯び始めた。

「わあ、っ……!?」

マコトは思わず腕で顔を覆った。次の瞬間、目を開けると、そこは先ほどまでの無機質な空間ではなかった。 足元にはエメラルドグリーンの穏やかな波が打ち寄せ、頭上には地球では見たこともないような巨大な二つの月が浮かぶ、幻想的な「夜の砂浜」が広がっていた。波の音、そして夜風の涼しさまでが肌に伝わってくる。

「ここは私の大好きな、別の銀河にある保養地のアーカイブよ。この船の内装はすべてが超高精細なディスプレイになっていて、宇宙中のあらゆるシーンを再現できるの。照明も、温度も、香りも、私の気分次第!」

アイはそう言うと、持っていたコントローラーを操作した。すると、彼女の着ていたシンプルな宇宙服が光の粒となり、一瞬でひらひらとした南国風のドレスへと変わった。

「マコト、この船はただの乗り物じゃないの。自分を表現するための『ステージ』であり、心を自由にするための『実験室』なんだから。……ちょっと設定ミスって、たまに重力が逆さまになっちゃうこともあるけど、それはご愛嬌ね!」

アイは照れくさそうに笑いながら、砂浜(の映像)の上でくるりと踊ってみせた。

「さあ、次は何に変身しようかな? マコト、あなたもそんな窮屈そうな服、脱ぎ捨ててみたくない?」

 



※この物語はフィクションであり、おとぎ話です。 実在の人物及び団体とは一切関係ありません。