「民法及び家事事件手続法の一部を改正する法律案」が第196回通常国会に提出され、衆議院で可決後、現在は参議院で議論中です。

その中で、今回は「配偶者居住権」について取り上げてみます。

◆配偶者居住権とは

例えば、夫Aが亡くなり、その相続人が妻B、長男C及び長女Dとします。生前Aは自分名義の自宅に妻Bと一緒に住んでいました。Aが亡くなったため、BCDが遺産分割協議を行い、長男Cが自宅を相続することになりました。この時に、自宅を相続できなかった配偶者であるBに自宅についての「使用及び収益」をする権利を与えるというのが、配偶者居住権です(改正後民法 第1028条 ※1)。

趣旨としては、残された配偶者の居住権を守ること、また、自宅に住み続けながら遺産である現預貯金も相続し易くし、余生の軍資金を手厚くすることなどです。

配偶者居住権の存続期間は、原則、遺産分割協議などで自宅の取得者が決定してから配偶者である妻Bが亡くなるまでの終身です。また、妻Bが第三者に配偶者居住権を対抗するためには、登記が必要です。改正後の不動産登記法第81条の2に規定される想定ですので、おそらく「乙区1番 配偶者居住権設定」の様に入ります。賃借権などの用益権の設定登記と同様のイメージです(以下、こちらの登記をここでは「居住権登記」と略します)。

配偶者居住権については、我々司法書士が様々な切り口のご相談を受けた際に、それぞれ全く異なった留意点が想像されます。夫Aが遺言書を作成する際、BCDが遺産分割協議を行う際、又は、第2次相続や内縁の妻がいる場合など。論点は多岐に渡りますが、今回は、居住権登記後に自宅を売却する際を想定してみたいと思います。


◆存続期間と合意解除

長男Cが自宅を売却する際には、前提として、居住権登記を抹消する必要があります。抹消する原因としては、存続期間の満了や合意解除(又は妻Bの権利放棄)などが想定されます。存続期間は原則、配偶者の終身ですが、遺産分割協議や遺言書などで別段の定めを置くことも可能です。この際に将来の売却を見越し、「存続期間は長男Cが自宅を売却するまで」という定めは可能でしょうか? もし可能であれば、遺産分割協議後に長男Cが恣意的に売却をすることも可能となり、立法趣旨からすると少々疑問です。

また、存続期間が配偶者の終身である場合に、期間途中の自宅の処分にあたり、長男Cと妻Bが配偶者居住権の合意解除をすることは可能でしょうか? 妻Bが高齢者の場合、弱い立場である妻Bが解除を拒否することが困難なケースが予想されます(※2)。

存続期間の別段の定め方や、合意解除の可否など、居住権登記の抹消については、その原因が論点になりそうです。


◆購入予定物件に居住権登記が入っている場合の留意点

もし皆様が長男Cと売買契約を締結した際に、乙区に居住権登記が入っている場合は、その抹消の可否についてご留意が必要です。

・抹消の登記原因が存在するか?
・妻Bに意思能力はあるか?、又は、妻Bの成年後見人は当該売却を承諾しているか?
・妻Bが死亡している場合はその相続人が抹消登記の申請人となるため、相続人が手続に協力をしてくれるか? 疎遠になっている相続人はいないか?

などなど。


今回は、相続法改正の中で配偶者居住権について取り上げてみました。成人年齢の引き下げにより18才の夫が亡くなった際の3世帯同居家族、人生100年時代の到来、8050問題など、種々様々な問題と絡み合うことも想像されます。

引き続き弊事務所では実務の動向をチェックしていきますので、今後とも宜しくお願い申し上げます。



※1
相続開始時から遺産分割協議の確定などまでの期間の配偶者の居住権を守る規定もあります。配偶者短期居住権と言います(改正後民法 第1037条)。

※2
合意解除が可能で、且つ、妻Bが被成年後見人の場合は、成年後見人が妻Bの代わりに解除する際に家庭裁判所の許可が必要になると思われます(民法第859条の3)。



◆ご参考

民法及び家事事件手続法の一部を改正する法律案
http://www.moj.go.jp/MINJI/minji07_0021299999.html

民法(相続関係)等の改正に関する要綱案(案)
http://www.moj.go.jp/content/001246034.pdf

法制審議会-民法(相続関係)部会
http://www.moj.go.jp/shingi1/housei02_00294.html