小学生の頃、バレンタインデーに
とても好きだった女の子から、休み時間に
「放課後、焼却炉の所に来てくれる?」と言われた。

この焼却炉というのがまたリアルで良い。

その日の授業はよく分かりもしないのに手を挙げたりして
すっかり浮き足立っていたのを覚えている。

なにせ、好きな子からバレンタインに呼び出されたのだから。

先生に指されたりしても「わかりません、エヘ」なんて。


放課後、「呼ばれたからしょうがなく来た」という風な感じで
ちょっと遅れて待ち合わせ場所に行った。
そう、カッコつけて。

「カラシ君、K君と仲良いよね?」

ここから先はよく覚えていない。
視界に見えるものがすべてモノクロに見えていたのは
なんとなく覚えている。

確か、K君のために一生懸命手作りしたとか、
夜遅くまで掛って大変だったとか、
苦労話を聞かされた。

「これ、A子から。 頼まれた」
K君にチョコを渡す手が少し震えていたかもしれない。

K君、君は宇宙一幸せな奴だ。
僕はもし、K君に代われるなら、
悪魔にだって魂を売るさ。

そんなこんなで、吹けば倒れてしまうんじゃないかと思われる
フラフラな俺に対して、家に帰ったら母ちゃんが


「はい、これバレンタイン」と言って俺にチョコをくれた。


母ちゃん、ありがとう・・・。
俺も女の子からいっぱいチョコを貰えるような
カッコいい男になるように頑張るよ。
そして母ちゃんを安心させるよ。

「あんた好きでしょ? アフロ」


でも母ちゃん、そのチョコはアフロじゃなくて、アポロだから。