俺は特段、プロレスファンというわけではない。

しかし、小学生の頃、ひと時、プロレスに
熱中した時があった。

初代タイガーマスクの頃だ。
金曜8時に始まる新日本プロレスが楽しみで
しょうがなかった。

近所の駄菓子屋でタイガーマスクのステッカーを
クジで当てて、自転車に貼ったりしていた。

そんなタイガーマスクの命とも言える、
マスクを剥がそうとするヒールのレスラーがいた。

小林邦昭だ。

毎度、試合のたびにタイガーのマスクに手を掛け、
それを剥ぎ取ろうとしやがる。

やめろ、そんな卑怯なことをするな!

なんてテレビに向って言っている俺と
ヒーロー、タイガーマスクの素顔が見てみたいという
好奇心の両方の思いが葛藤していた。

「タイガー、だめだ、後に回られるとマスクに
手を掛けられるぞ」なんて言いながら、
「よし、小林、そうだ、そこでマスクを剥ぎ取れ」
そんな複雑な感じ。

そんなヒーロー、タイガーマスクが引退した。

よくぞ、卑怯な小林を相手に、
マスクを剥ぎ取られずに戦った。

タイガーの素顔を見ることは出来なかったという
複雑な思いの中、小学生の俺は心で
「タイガー、お疲れ様、ゆっくり休んでくれ、
お前は俺の永遠のヒーローだ」
なんて思っていた。

その頃、プロレスと同じくらいテレビで
楽しんでいたのが、欽ちゃんこと、萩本欽一。
毎日、テレビで欽ちゃんを見ない日はない。

水曜日は確か、
「欽ちゃんのどこまでやるの」
通称、「欽どこ」

その日のゲストは引退したタイガーマスク。

おお、タイガーよ、お前をリング以外で
見たくはないぞ、なんて思っていたら
衝撃的な展開になった。


あんなに小林邦昭の魔の手から守ったマスク。
欽ちゃんに言われて、あっさり脱いだ。


北風と太陽の話を思い出した。