「長男の嫁に遺産を残したい」ときに「遺贈」と「死因贈与」という方法があることは、これまで申し上げてきたとおりです。この二つの違いを以下の例で説明してみましょう。
Aさんが、長男の嫁であるBさんに不動産Xを残そうと考え、遺言書にもきちんと「XをBに遺贈する」と記述しておきました。しかし、しばらくして急にまとまったお金が必要になったAさんは、そのXを売却してしまったのです。この場合、遺言書にはXをBさんに遺贈する、とあってもその部分についてはAさんが撤回したものとされ、Xに関する記述は無効になってしまいます。
もし、これが「死因贈与」だったらどうでしょう。実は「死因贈与」契約書があれば、X不動産について「始期付き所有権移転仮登記」というものをすることが可能なのです。これは、いま現在は所有権は移さないけれど、Aさんが亡くなったら所有権を移す、という仮の登記です。この仮登記をしておけば、もしAさんがXを売却したくても事実上不可能になるわけです。
仮登記の手続きは原則、Aさん、Bさんのお二人が共同で行わなければならないなど、いくつかの障壁もありますが、これが「死因贈与」の大きなメリットであることは間違いありません。