脳梗塞、敗血症性ショックと2度の大病を経て無事生還し3年目になる今、

 

なぜか夫は職場で、まるであたしへの嫌がらせかのよーに

 

連日数字認識ミスによる凡ミスばかりを繰り返していたけれど

 

それに対して、ついに堪忍袋の緒が切れてしまった、

 

あたしは怒声を上げてしまった

 

確かにそれでいくらかの注意喚起にはなったみたいで

 

ピタリと夫の数字認識ミスはなくなって胸を撫で下ろしたのもつかの間、

 

まるで、そーんなあたしをあざ笑うかのよーに、

 

夫の逆襲メラメラでも始まったかのよーな、

 

今度は数字認識ミスとは違う、別の種類の凡ミスが発生したのよ!

 

ホント、いい加減にしてよ!!

一体、この男はどんだけあたしを

悩ませれば気が済むのッ?!ムカムカムカムカムカムカ

 

これまでも決して勤勉な従業員とは呼べなかったあたしではあったけど

 

さすがに連日、こーも容赦ない夫のミスの嵐に巻き込まれて、

 

いい加減、こちらも参ってしまい

 

また職場に足を踏み入れた途端に、夫のあのミスに振り回されてしまうのかと思うと

 

どーにもあたしの全身で抗議の声を上げて、強ーく出社拒否を要求したものだから

 

そのまま欠勤してしまったの

 

もちろん、それでなーにも問題解決することはなく、

 

むしろ期限のある仕事を後ろ倒しにして

 

後で自分の首を締めることになることは百も承知だったわ

 

だけど、それが一体なによ?!

勇気ある英断、一時撤退よ、

英気を養うための、何か文句ある?

 

そんでもって、

 

そー言った、夫とのやり取りでストレスが溜まってしょーがない

 

おまけにそれが祟って、寝込んでしまい欠勤までしてしまったことを

 

あたしの心服するメンター、通称・教祖様にぐちぐちと愚痴っていたら

 

教祖様はいみじくもこー仰ったの

 

「キデさん、この世の物事には全て意味があります

 

特に、そういうストレスフルなことを何度も繰り返す場合は、

 

キデさんに伝えたいメッセージ性が強いと言うことです

 

それに気付かない限り、気付いて貰うまで何度でも繰り返されることでしょう

 

あるいは、ハインリッヒの法則にもあるように、

 

ひょっとしたら、こうして小さなミスを連発させることで

 

今後、起りうる大きな事故などに対して注意喚起させているのかも知れませんね」

 

うーん、教祖様の仰ること、頭では分かるけど、今ひとつ、しっくりこないなぁ…

 

全然、腑に落ちてこないと言うか…

 

だけど!!

 

そこはほら、何度でも言うけど、あたしってば、

 

「最終的には自分の欲しいものを勝ち取る女」でしょ?

 

教祖様からそー言われた翌朝、目覚めしなに、

 

そーねぇ、あれは守護天使の声だったに違いないわ

 

またもや声が聴こえて、そこから一気に、

 

あたしを取り巻く、この腹立たしーだけだと思われた、

 

一連の物事の意味がするすると解けて、

 

何もかも氷解してしまったのよ!

 

それは何だったかと言うと…

 

おととしは脳梗塞、去年は敗血症性ショックとで入院した夫は

 

そのたびごとに、主治医を始めとした、周囲の誰もが驚愕する、

 

奇跡の復活劇キラキラを遂げて来たわけだけど、

 

それでも、何だか入院の回数を重ねるごとに、

 

病状の深刻度合いも増していくよーだったわ

 

だからこそ、つつがなく、当たり前の日常を

 

当たり前として日々送れていることに対して

 

あたしは感謝をしてきた筈だったのに、

 

おぉ、それなのに!!

 

喉元過ぎれば何とやらで、あたしってばいつしかその感謝の念さえも

 

どーやら、すーっかりと忘れ去ってしまっていたのかも知れない

 

よくよーく考えてみれば、夫は過去2年間、6月までの上半期で大病を発症してきた

 

毎年恒例行事みたいに続いて、しかも回を重ねるごとにどんどんと深刻化していく

 

夫の入院の可能性を、ひょっとしたら、今年もあったりするのかしらって

 

ぼんやりと考えては怯えていたりしていたのも事実

 

だからこそ!!

 

ちょーどその3年目の今、何だかんだ言ったって、

 

いつでもあたしに優し過ぎて、あたしの絶対的味方である夫は、

 

大病をまた発症して救急入院するよーな悲劇を繰り返さない代わりに

 

ここ最近の摩訶不思議にも思える、数字認識を始めとした凡ミスの連発程度で

 

あたしを煩わせているだけだとしたら、

 

おぉ、その程度で夫の救急入院を避けられるのだとしたら、

 

夫のミスの数々だって、ありがたい、むしろ愛おしーじゃないの!!

 

そもそも、凡ミスごときで死んだりする人はいなーい!

 

たまたま凡ミスが重なってあたしの逆鱗に触れてしまっただけで

 

それ以外では、相変わらず夫は手のかからない、

 

いいえ、むしろ、あたしに代わって、今でも家事を積極的にこなしてくれる

 

まさにあたしにとっては、出来過ぎた夫なの!

 

結婚当初からの約束で、未だにそれを貫いて、

 

あたしたち夫婦は同衾(どうきん)しているのだけど

 

もう目覚まし時計がそろそろ鳴る頃で、それに合わせて夫の眠りも浅くなったのか

 

隣で寝がえりを打ったりしてる

 

あたしは急にそーんな夫が愛おしくなって、背後から夫に抱きつくと

 

シルクパジャマの彼の分厚い背中に顔を押し当てたの

 

夫もそーやってあたしに抱きつかれて気持ちいいのか、

 

無言のまま、あたしの腕を振り払うこともなく、そのままにしてる

 

「…あのね、オッパ(夫)、ここのところ、仕事でミスが続いているじゃない?

 

あたしもそれについ目くじら立てて、怒鳴ってしまったりしたけど

 

だけど、よくよく考えてみたら、あの程度のミスでオッパの毎年恒例だった

 

救急入院が避けられたかと思えば、良かったと思っているの

 

むしろ、ありがたいと言うか…

 

だって、ほら、敗血症になって運ばれたのは、ちょーど1年前の今頃だったでしょ」

 

「…前向きなんだな…」

 

そこであたしは思い出したことがあったの

 

過去2年間の夫の長引く入院のたびに、

 

夫のいない職場・家庭でのやりくりにいい加減疲れ切ったあたしは

 

決まって、定期的に入院患者の夫に八つ当たりをしては

 

「もー、見舞いには行きません!行きたくもありません、疲れました!!」

 

と、ごねて反旗を翻していたのね

 

すると、夫はそーんなあたしに、決まって毎回こーんなメールを寄越して来たのよ

 

「俺にはあなたしか頼れる人がいません、だからそう言われると、心寂しいです」

 

「だって、昔から『割れ鍋に綴じ蓋』って言うじゃない?

 

あたしの足りないところはオッパが補って、

 

オッパの足りないところはあたしが補う、

 

あたしたちってば、運命共同体だと思ってるの

 

だから、この春にあたしが虫垂炎で入院したのだって、

 

ひょっとしたら、オッパの代わりに入院したのかも知れないよ

 

ホーント、あの程度の軽ーい入院で済んだなら、ラッキーよ!」

 

物事をそー謙虚にとらえ直してみれば、ひょっとしたら、

 

この過去2年間の夫の大病騒動だって、あたしにわざわざそのことを教えるための

 

実は、大掛かりな仕掛けだったのでは、とさえ思えて来た…

 

あたしはそこで再び、夫の背中に顔を強く押し当てると

 

心の中でそっとこー呟いたの

 

「オッパ、ありがとう、このまま長生きしてね…」

 

それから、あたしは話題を変えるために、

 

咄嗟の思い付きでこーんな質問を夫にしてみたのよ

 

「オッパって、あたしのこと、ネコ型人間だと思う、それともイヌ型だと思う?」

 

夫は迷うことなく、即答したわね

 

「ネコだな」

 

「えー、何で?」

 

「だって、自分が甘えたい時にだけ、こーしてすり寄ってくるから」

 

アハハ…なるほどね、これまでメンズにも同じ質問したことがあったけど

 

確かに、彼らも一様にあたしのこと、ネコだと答えていたわ

 

一旦、外に出てしまえば、なかなか自分の元へ戻って来てくれそーにないからとか、

 

なかなか自分に懐いてくれなさそーだからとか…ってね、笑

 

そーそ、それから後日、こーんなことがあったのよ

 

夫とサスペンスドラマを観ていた時、どーいう話の流れだったか、

 

主人公がこれ以上、容疑者の秘密は暴かないことにするとかって言って

 

そこでスパッと捜査を打ち切るシーンがあったのね

 

「俺なら、最後まで追求して秘密を暴く!」って、

 

無類のサスペンス好きの夫は、珍しく興奮してTVに向かって言っていたの

 

そこで、あたしはまたしても思い付きで、恐る恐る夫に質問してみたのよ

 

「ね、この容疑者があたしだったらどーする?

 

あたしの秘密も最後まで暴こーとする?」

 

「暴かない、暴いたところで、ロクなことはないからな」

 

なるほど…思いがけない夫のその返事に人知れずギクリとしながらも

 

あたしはますます、自分の中での確信を強めたわね

 

あたしもどこかで薄々分かっているけど、

 

だけど、あたしもそれを敢えて確認しよーとは思っていないの

 

だって、夫もそれを知りたがってはいないのだから

 

だったら、2人して知らぬフリして、一切触れぬ方がいい

 

そ、あたしの男遊びについて…

 

あたしはそこで思い出したかのよーに、隣に座る夫に腕を絡めると

 

分厚くて硬い、彼の肩に頭を置きながら、こーも考えていたの

 

「救急搬送されたあのとき、熱に浮かされて『男遊びは楽しいですか?』って

 

夫が言ったよーに聞こえたのも、あれは実は彼の本音で、

 

熱に浮かされていたからこそ、

 

いろーんなブロックが外れて素直にあたしに言えたのかも…ね」

 

 

The End

 

 

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