明らかに高熱が出ていると判断したあたしは

 

夫を早退させ、徒歩5分の自宅へ1人で歩いて先に帰すと

 

なぜかその日に限って、あたしは珍しく残業までしていたの

 

今、こーしてその当時のことを振りかえってみても、

 

決して勤勉だとは言えないあたしがなぜ残業までしたのか思い出せない

 

だけど!!

 

あたしは思うの、この世で起こることは全て必然で、

 

偶然だとか、無駄な出来事など何1つもないと

 

だから、その日、あたしが珍しく1人残って残業したのも

 

物事の流れとして必然だったのだと思うわ

 

そーして1時間ばかり残業を済ませた後で、あたしも帰宅したの

 

家に戻ると、夫は居間でTVをつけたまま背を向けて横たわっていて

 

あたしが帰宅して声をかけても、寝ているのか振り向きもしなかったわ

 

あたしも起こすまいと、それ以上は何もせずに放っておいたけど

 

トイレは夫のこぼした大量の尿で水浸しになっていて

 

帰宅して履き替えたズボンだって

 

律儀な夫らしく一応ハンガーに吊るそうとした形跡はあるものの

 

それさえも1人では上手く出来ずにいたみたいで脱ぎ捨てたままになってた

 

その時点であたしがもっと夫の高熱に対して気を配るべきだったと思うし

 

すぐ近所にある病院に電話でなり問い合わせすべきだったのに

 

抗がん剤の副作用に悪慣れし過ぎてしまっていたのかな

 

副作用なんだからこんなもんでしょって、見くびってしまってた

 

それから、日頃からつつがなく日常生活を送れている夫の姿に

 

彼が実はステージⅣのがん患者であることをすーっかりと忘れてしまい

 

風邪をこじらせて熱を出してしまう程度にしか受け止めていなくて

 

熱が出るのは、体内で悪いウィルス、あるいは細菌とでも戦っている証拠だわって

 

健常者の自分の体に完全に置き換えて、夫の高熱のことを見てしまっていたのよ

 

そんな調子だったから、あたしはそんな夫をよそに

 

残業した自分を癒すべく独り手酌酒で晩酌まで始めてしまっていたの

 

いつもだったらあたしが冷蔵庫から何かつまみを取り出すたびに

 

その物音に食いしん坊だった夫は何を食べているのかって

 

いちいち振り返っては確認して、そんな夫の姿が可愛く見えて好きだったのだけど

 

今回ばかりは、それさえもしなくなって夫はTVをつけて背を向けたままだったわ

 

それがちょっと寂しくて、夫の顔を遠くから覗き込んだら、ずっと寝ていたの

 

寝たら少しは熱も下がってくれるのかなって

 

相も変わらず、あたしはおめでたいままだったわね

 

久々の残業に疲れ果てご褒美だって言い訳しながら

 

ついつい、いつもよりも酒量が増えてしまったあたしは

 

そのまま酔っ払ってゴロンと寝てしまったの

 

そしてあれは忘れられない、23時半頃だったわ

 

あたしに時々メッセージを送って教えてくれる守護天使が

 

いい加減、あたしの能天気ぶりを見るに見かねて

 

夫に憑依して教えてくれたのだと思う

 

そ、酒に酔って隣でぐうぐう寝るあたしに

 

夫は自分の重篤な状態を教えてくれたのよ

 

だって、これは後から知ったことだったけど

 

あのまま救急搬送されなかったら

 

夫は朝を迎える頃にはあたしの隣で冷たくなって

 

知らぬうちにあの世へと旅立っていたぐらい瀕死の状態だったと、

 

病院で言われたわけだから

 

あたしに優し過ぎる夫はそうなってあたしを悲しませまい

 

あたしが後で自分を責めぬようにと

 

眠るあたしに長いうわ言で話しかけることで

 

あたしを起こしてくれたのよ

 

そう、それまで寝返りも打てなかったはずなのに

 

夫はあたしの方へと体を向けると目を合わせ

 

しーっかりとした口調で、確かにこー言ったのよ

 

「…(       )は楽しいですか?」

 

語尾だけは間違いなくそう聞き取れた

 

だけど、( )の中はその当時は聞き取れたような気がしたけど

 

是非とも聞き間違いであって欲しいとかなり動揺して認めたくなく

 

今でも認めたくなく、聞き間違いだったに違いないと思ってる

 

それでも、敢えて( )の中を書けば

 

「…(男遊び)は楽しいですか?」

 

当時のあたしには確かにそう聞こえたような気がして

 

それでガバっと身を起こして、

 

慌てて「何を言ってるの?!」って夫を見たわけだから

 

だけど、熱に浮かされた夫は

 

あたしとその後しばらく会話が出来るよーな状態じゃなかったの

 

今、こーして考えてみても、あれはやーっぱり、

 

守護天使の、ちーょっと乱暴な警告だったなって思う

 

いよいよ鈍すぎるあたしに見かねて夫の異常を認識させるための

 

だって、いわゆる普通の他愛ないうわ言だったなら

 

暢気過ぎるあたしは大して気にも留めずに

 

そのまま寝ていただろうと思うから

 

しかし、現実では夫のうわ言にかなり動揺してしまったあたしは

 

すっかり目が覚めて灯りを点けて

 

恐る恐る夫を覗き込んで眠る夫の額に何気に触れたら

 

昼間よりも更に熱くなっていることに気付いて

 

そこでようやく救急車を呼ぶことを考えたの

 

でも、それでもやはり深夜に救急車を呼ぶことにまだためらいがあったわ

 

そんな時に、救急車を呼ぶべきかどうか判断してくれるサービスを見つけて

 

そこに電話して夫の症状を伝えたら

 

今すぐ救急車を呼んでくださいと言うことだったから

 

夫は今そんなに大変な状態だったんだと

 

そこでようやく初めてあたしは認識して

 

救急車が到着するまでの間、怖くてずっとうろたえていたの…

 

 

to be continued...

 

 

 

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