ミニかミンヒか | 辺境にも吹く風

昨日の STELLAR のミニの表記の件、민희 (ミンヒ、MinHee) という名前を“ミニ”と表記している例が確か実際にあったな、と考えていてふと思い当たったのが女優のキム・ミニ。調べてみるとやっぱりそうだった。

ハングルをカナで表記するには当然ながら自ずと限界があって、あまり細かくこだわってもしょうがないと今では思っているが、以前は表記がバラバラなのにいらだちを感じていたこともあった。

表記を統一させるには大きく二つの方法があると思うが、その一つは変換規則を厳密に定めて機械的に変換する方法。ハングルのアルファベット表記に関する文化観光部2000年式がその一例だが、STELLAR のメンバーで見るとこれに従っているのは HyoEun のみで、GaYoung、MinHee、JeonYoul のいずれも規則から外れている。

Wikipedia にも特に人名に関してはこれが徹底されていない旨が記されているが、その理由はおそらく実際の発音と大きく異なるケースが見られるためだ。名前というのはアイデンティティにおける重要な要素(ラベル)であるから、相手が外国人であってもできるだけ正確に認識されたいというのは自然なことだろう。

したがって、表記を統一させるもうひとつの方法というのが、実際の発音に極力近いものとすることだが、ここで異なる言語間で変換を行う際の限界が露呈する。相手の言語にない発音はどうやっても正確に表記することはできないということだ。

"민희" は“ミニ”なのか“ミンヒ”なのか。原理主義的に言えば“ミンヒ”だろう。ただ、カナの表記どおりに日本人が発音したものは実際の発音とは似ても似つかないものになる。むしろ“ミニ”と発音したほうが実際の発音に近いが、厳密に言えば正しくはない。

他にも、語頭が濁るか濁らないかという点で、“ガヨン”と表記するか“カヨン”と表記するかが分かれるといったことがある。

たとえば NHK で放送される韓国ドラマの字幕では、フルネームならキム・ジュウォン、下の名前だけで呼ばれるときはチュウォン、といったように厳密な書き分けがなされているが、記事などで芸能人の名前をこのように書き分けるのは実際的ではなく、また韓国語に馴染みがない人にとっては書き分けられるとかえって混乱の元となるかもしれない。

アイドルの愛称などの場合、下の名前だけで呼ばれることがほとんどであるのでそのような書き分けは不要であるが、語頭が濁るか濁らないかという点に関しては実際のところバラバラである。フルネームが公開されている場合にはそれに合わせた表記になっているのかと思いきや、たとえば KARA のカン・ジヨンも“ジヨン”、T-ARA のパク・チヨンも“ジヨン”である。では常に濁らす方に統一しているのでは?と思いきや STELLAR のチョンユルの場合“ジョンユル”とは表記しない。

名前の表記は、最後は本人がどう発音してもらいたいかにかかっていると思うのだが、芸能人の場合はもう少し戦略的なものがそこに介入しているケースもあるように思う。

そのことを強く感じたのが Nine Muses の日本公式サイト。プロフィール欄でミンハ、リセム、ヒョンアの表記に強い違和感を覚えた。しかもミナ、イセム、ヒョナからわざわざ表記を変えたのだという。

ミンハ (민하) に関しては、“ミニ”か“ミンヒ”かの議論と同じ問題なのでまあ良しとしよう。一番納得がいかないのはリセム (이샘) だ。すでにハングル表記にも存在しない、頭音法則によって脱落する 'r' の音をなぜわざわざ復活させたのか。(北朝鮮出身者だとでも言うのだろうか?)

リセムほどではないが、ヒョンア (현아) も納得がいかない。これは“ミニ”か“ミンヒ”かの議論と違って文句なく“ヒョナ”だ。

イセムを“リセム”に変えた理由はよくわからないが、“ミンハ”や“ヒョンア”に変えたのはそこに検索語対策があるのではないかと邪推している。ヒョナと言えば 4Minute のメンバーが検索結果の一番に出てくるが、下の名前は一緒である。キーワードに "Nine Muses" を追加すれば混同される可能性は減るが、同じ K-POP というジャンルの中にいるのでその可能性がまったくなくなる訳ではない。ミナもまた Girl's Day のミナ (민아) とカナ表記では混同されるかもしれない。

似たようなグループが数多く存在する K-POP 界にあって、ましてカナ表記だと日本人には皆同じような名前に見える中、少しでも他から差別化することは重要な問題であるから、そのような戦略的な理由からカナ表記を決定していることがあったとしても少しも不思議ではない。

もっとも、それが実際にファンの間で浸透するかどうかはまた別の問題だ。コアなファンほど実際の発音に近い表記を好む傾向にあるから、ファン層があまり広がっていなければそのような公式表記はさほど浸透しない。逆に、たとえば少女時代くらいのファン層の広がりがあればソニよりもサニー、ティパニよりもティファニーのほうが自然と一般化するのだろう。(もっとも、米国育ちのティファニーをわざわざハングル読みする方がひねくれているという説もある。Sunny という芸名を名乗るサニーの場合も同様)