「老化」ってなに?

 

人は老いるものです。よる年並みや衰えを年々感じることがあるでしょう。古くから、人は老いになんとかあがらえないものかと思案してきました。たとえば、「不老不死」。秦の始皇帝は、不老不死の妙薬を探しもとめました。最近では、アンチエイジング。さまざまな食事、サプリ、方法、手段、治療、手術などがあるようです。

 

ここで、ふと立ち止まってみたいと思います。「老い」ってなんだろう?「老化」ってなんだろう?

 

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医学生A:「老化」ってどういうこと?年をとることを老化とおもったらいいの?

 

N教授:う〜ん。いい質問だね。答えるのが難しいな。そうだな。老化を考えるときは、「生命現象」とは、そもそもどういことなのか?という視点で観てみるといいぞ。「生命現象」とは、どのように定義されると思うかな?

 

医学生A:うわ〜。生命現象とは?心臓が動き続けることかな?それとも、脳が生きていることかな?そういえば、この間の授業で、「恒常性(ホメオスターシス)」という言葉をならったけど、それと関連があるのかな?

 

N教授:お!いいね。恒常性という言葉がでてきたね。そうそう。それと関連があるよ。それじゃ〜、こんなふうにイメージしていきながら、一緒に考えてみよう。キーワードは、「秩序」だよ。

 

医学生A:「秩序」ですか?どういうことですか?

 

N教授:「秩序」とは、意味のある状態、整理されている状態をイメージしてみたらいいよ。たとえば、君の住んでいる部屋はどうかな?

 

医学生A:うわ〜。ぼくの部屋は散らかっています。ものがたくさんあるし、かたずけるもの面倒だし、かたづけてもすぐ散らかってしまうんですよ。

 

N教授:そうそう。いいこといってるね。秩序は、きれいに整理整頓されている君の部屋をイメージしたらいいよ。そして、部屋は散らかっていくから、がんばって整理整頓しないと、乱雑になっていくよね。それが、無秩序だね。整理整頓されている部屋を維持しようと思ったら、すごい努力が必要だね。

 

医学生A:はい。ぼくは、部屋をきれいするのは、くじけちゃいました。ちらかり放題です。

 

N教授:ふふ。誰かに手伝ってもらうといいね。さて、同じように「生命現象」を考えるときには、秩序という視点で観てみるといいよ。生命とは、「秩序のある状態」のことを言うよ。すると、「生命現象=秩序のある状態を維持し続けようとすること」と考えてみよう。

 

医学生A:「生命現象とは、秩序のある状態を維持し続けようとすること」ですね。

 

N教授:そうそう。無秩序から秩序のある存在・生命が誕生したよね。そして、生命は、単細胞から多細胞、細胞がたくさん増えていき、分化(役割分担すること)して、いろいろな臓器・器官をつくっていくよね。そして、どんどん複雑な構造をした生命体が創られていく。動物が誕生して、人が誕生するね。だから、生命というのは、とてつもなく秩序だっている状態なんだよ。そして、生命現象は、とてつもなく秩序だった状態を維持し続けようとすることなんだよ。

 

医学生A:うわ〜。そうなんだ。そうすると、ぼくの部屋と同じように、ほっておくと、どんどん散らかっていくんじゃないですか?

 

N教授:そうそう。いい質問だね。その通りだよ。生命は秩序だった状態から、だんだんと無秩序な状態に常に変化していくんだよ。生命の場合は、こわれていく(崩壊していく)ことになるね。

 

医学生A:それじゃ〜、こわれないようにしないといけないですね。そうか。生命現象は秩序だった状態がこわれていくのを、こわれないようにしているんですね。どうやってこわれないようするのかな?

 

N教授:お!いいね。するどい考察だよ。生命は、どうやって秩序のある状態を維持し続けようとしていると思うかな?それを、考えてみよう。Aくんの部屋を常に整理整頓されている秩序のある状態に維持するのは、すごく大変だろう?

 

医学生A:はい。すごく大変です。ほとんど不可能です。

 

N教授:そうだね。その不可能を、生命はどうしているのだろうね?キーワードは、「動的平衡」と「力」だよ。

 

医学生A:「動的平衡」と「力」ですか?え?何ですか?それ?

 

N教授:秩序のある状態を維持し続けようとしたら、どんな戦略をとったらいいだろうね?一緒に考えてみよう。家だったらどうかな?台風がきても、地震がきても、風雨にさらされてもこわれないような家をつくろうと思ったらどうするかな?

 

医学生A:とにかく頑丈な家を創ります!

 

N教授:うん。そうだね。それだと、こんな不便があるよ。まず、人をこわれないように頑丈に創ると、どうなるかな?硬くて柔軟性がないし、たぶん重量が重たくなるよ。そして、どんなに頑丈につくっても、かならず壊れてくるんじゃないかな?

 

医学生A:そうですね。それじゃ〜どうしたらいいかな?

 

N教授:生命はね、頑丈に創るという戦略は採らなかったみたいだよ。かわりに、創ったり壊したりを常に繰り返し続けるという戦略を採用したんだよ。

 

医学生A:え?創ったり壊したりですか?

 

N教授:そうそう。創ったり壊したりだよ。はなから頑丈でこわれないものを創らないで、創ったものをすぐに壊して、新しく創りなおすという戦略を採用しているのだよ。だから、細胞、組織、臓器、器官、生命を構成するあらゆるものは、常に創ったり壊したりを繰り返すことで、秩序ある状態を維持し続けようとしているのだよ。これを、「恒常性(ホメオスターシス)の維持」と言うのだよ。最近では、創ったり壊したりを常に続けているので、その「動き」に注目して、「動的平衡」と呼ぶこともあるね。生命と生命現象は、動きそのものなのだね。止まったら死。常に動き続けて、創ったり壊したりが動的に平衡状態になっているのが、私たち人だと思ったらいいね。

 

医学生A:動きが止まったら死。ということは、創ったり壊したりという動きが止まったら死ですね。それと、老化が関連するのかな?

 

N教授:その通りだよ!するどいね。そして、A君の部屋をきれいに保つには、努力と労力や助力が必要なのと同様に、生命が、創ったりこわしたりをやり続けるためには、「力」が必要だね。それが、エネルギーだ!。生化学で習ったよね。ATP!

 

医学生A:ぎく!ATPですね。

 

N教授:ふふ。まあいいよ。今はATPのことは脇においておこう。とにかく、生命はエネルギーを使って、創ったりこわしたりをやり続けているよ。これで、生命現象について、イメージができてきたかな?すると、老化とは、なんだろうね?

 

医学生A:創ったり壊したりをやり続けることで、秩序ある状態を維持し続けようとすることが生命現象。とすると老化とは・・・・?

 

N教授:老化とは、こわせなくなることだよ。そして、創ったりこわしたりする動きが遅くなることだね。

 

医学生A:老化とは、こわせなくなること・・・?

 

N教授:そうそう。老化とはこわせなくなること。こわせなくなるから、秩序ある状態がだんだん維持できなくなるのだね。複雑な構造・機能をもっている生命、人体が、秩序を維持できなくなって、こわれていくのが「老化」になるよ。単に年をとることが老化とはいわないよ。こわせなくなることが老化。

 

医学生A:へ〜〜。こわせなくなることが老化。

 

N教授:そうそう。そして、こうも考えてごらん。こわせなくなるものは何だろう?

 

医学生A:こわせなくなるものですか?それは、細胞とか、組織とか、臓器とかですよね?

 

N教授:そうそう。その通りだよ。だけどね、人間は、体だけではないだろう?心とよんでいる複雑な精神活動、認識活動があるだろう?心とは、脳の活動が創り出す形のない実存(すなわち認識活動が創り出す実存)と習っただろう?

 

医学生A:え〜と、難しくてあまりよく覚えてないのですが・・・。

 

N教授:ふふ、脳の認識活動が創り出す実存が心とするとね。認識活動は常に、判断基準から行われるのだよ。そして、判断基準と比較して、○したり×したりして、それに対して、喜んだり、悲しんだり、怒ったりするわけだね。A君にもあるだろう?

 

医学生A:ええ・・。あります。

 

N教授:わかりやすくいうと、思い込みだね。誰にでも思いこみがあるだろう?老化とは、認識活動を創ったりこわしたりできなくなること、判断基準(思い込み)をこわせなくなることでもあるのだよ。

 

医学生A:え?思い込みをこわせなくなるのが老化!

 

N教授:そうそう。

 

医学生A:え〜!思い込みはなかなかこわせなくないですか?そうか!よく年をとると頑固になって、頭が固くなるっていうけど、それと関連するのかな?

 

N教授:そうそう。A君の頭は軟らかいね。創ったりこわしたりしているようだよ。でも、年が若くても、思い込みをこわせない人はたくさんいると思うよ。むしろ思い込みがどんどん増えていくのではないかな?思い込みをこわせなくなるのが老化とすると、どんどん老化していることがわかるよね?

 

医学生A:うわ〜。思い込みは、ぼくにもいっぱいあります。

 

N教授:さて、それじゃ〜今日の講義はこれぐらいにしておこう。

 

今日のまとめ

 

老化とは、こわせなくなること

 

2018年8月15日

はむたん 記