「感謝ってどこにあるの?」


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45歳
女性

原因不明の吐き気に悩まされています
毎朝吐き気がひどいです
日中も、「ちょっとしたこと」で吐き気がひどくなります

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子育てがあり
母として
妻として

忙しい毎日がすぎていきます
そこには
「間」がありません
「感情」がありません

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「感情ですか?」
「もちろんあります。いろいろです。ええと・・・、いらいら、いらいら、いらいら、あら・・いらいらばかりです」

思うようにならない子供
思うようにならない毎日
思うようにならない人生

いらいらの連続です。

そして、
いらいらしながら
しゃべったり
行動しています
表情もかわります

けれども、いらいら自体には無意識です。

刺激と反応を繰り返しながら
忙しい1日がすぎていきます

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「それって、どんな感情なんですか?」

はじめて、伺ったとき、彼女は、少し目が点になりました
そんなこと、深く考えていない
そんな様子でした

「それじゃ~、一呼吸おく練習してみましょう・・」
「間」を創る練習してみましょう
「感情」に意識をむけてみる練習をしましょう

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だんだんと感情にきづいて、受け止めて、だきしめることができるようになってきます

いらいらがやっぱり一番多いです
そして
不安
悲しい

うれしい
楽しい

もぽつぽつ・・

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あるとき
尋ねてみました
「ところで、感謝って、どれぐらいあるのですか?」

「え?」
彼女はびっくりしました。

「感謝ですか・・?ないわ・・。そうか、自分が感謝してほしいといつも思っているから・・。子供から・・夫から・・感謝してほしいの」

「それで、感謝してもらっていますか?
ぼくは、尋ねてみました

「全然。感謝の言葉は、何一つないわ。子供も夫も、そういうの、口にする人たちではないから・・」

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感謝はどこにあるのでしょうか?
ほしくても手にはいらないもの
それが、感謝
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練習を続けるうちに
彼女の吐き気はよくなってきました
吐き気のおこらない日が増えてきました

また、少しして
ぼくは
尋ねてみます

「感謝はみつかるようになりましたか?」

彼女は答えます
「いいえ、やっぱり、感謝はみつからなくて・・」
「感謝してほしいのに・・・。感謝してもらえなくて・・」

しばらく黙っています。

そして、ふと
顔をあげて

「そうだわ。自分からいってみたらいいのね・・」
「よく考えたら、私から、相手に感謝をいったことがなかったです。感謝してもらいたい、もらいたい、そればっかりで。自分から、いってみたら、もしかしたら、かわるかもしれないですね。わたし、やってみます」

それからしばらくして・・・

笑顔で診察室にはいってくる彼女の姿がありました。

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「感情」に意識をむける
「間」に意識をむける

それは、「主体性」を取り戻すこと

自分が自分の「主人公」にもどること
そこには、
尊厳があり
自分との出会いがあり
相手との出会いがあり
感謝があります

いくら探してもみつからなかった感謝
感謝はありました
それは、すぐそこにありました

これからは、
彼女は
自分自身が
「主人公」
となって

人生という航海を渡っていくことと思います。

BON VOYAGE

医療は門
だな