これからの医療を訪ねる

新板橋クリニック探訪(Dr’sファイル掲載より)

連載:第7回

Q: その想いが、今のクリニックにつながっているのですね。

A: はい。しかし、医師としての理想はあっても、最初の頃はただ目の前の治療をすることで精一杯でした。本当の意味で地域医療を充実させたいと考えられるようになったのは、勤務医として何年か勤めてからですね。当時、近親者をがんで亡くしたことや自身の闘病経験、そして日々の診療の中で患者さんから教えていただいたのです。患者さんの肉体的な痛みや苦しみを医療によってある程度和らげる事はできても、それを超えた痛みや苦しみ、例えば「なぜ死ななくてはならないのか」「今まで自分が生きてきた事に意味があるのか」という患者さんの葛藤に向き合って、そういった面を診て、初めて医療なのだと思うようになりました。それまでは「自分が何とかしてあげたい」という、主語が「自分自身」で物事を考えている状態だったのが、それをきっかけに「相手はどうなのか?」「相手が何を望んでいるのか」と、主語を「相手」に変えて考えることができるようになりましたね。なので、「どんな治療を行うか」ということはもちろん大事なのですが、それだけでは単なる百円玉の“表”。裏もなかったら、医療は成り立ちません。たとえば、がん治療を行った患者さんをどうすれば支えられるか、苦しみや不安・恐れをどうしたら軽くして差し上げられるかを考えることは、とても大切です。そして、そのためにどんな自分であり、どんなクリニックであるべきか、何のために医療をするのか、を見つめることもまた重要です。それができてはじめて、百円玉の表と裏が成り立つのではないかと思うのです。表に裏をつけて、はじめて、本当の医療ではないでしょうか。今、「未来の医療を考えるブログ」を発信していますが、これからの医療のあるべき姿を、社会にも、自分自身にも問いかけています。