産院で子の取違えがあり
67年経った今、出自の調査を求めた裁判で
調査を認める判決が下った。
事件の現場になった産院はすでになく
関係者がこの世にいない可能性がある。
調査を許可しても
いまさら結論が出ないかもしれない。
どこから来て、どこへ行くのか
この世に存在する動物の中で
ルーツを切望するのは
どうも人間だけらしい。
わが子をそれと認識できないのか、
という意見も出そうだけれど
お産で疲労困憊し、視線も定まらない状態では
母にわが子かどうか見極めよというのは
非常に過酷だと感じる。
正直、生まれた直後の赤子は割と皆
似たような雰囲気を醸す。
そこから日にちが経つにつれ、
親戚の誰それに似てるだの
親のどちらかに似てるだの
特徴が出てきて、
やがてご本人の容貌が定まっていくものだから
わかるやろという意見は感心しない。
若い頃務めたことがある病院では
以前、赤ちゃんの取り違えが
一瞬だけあったそうで
(その時は母がなんかちがう、と気がついた)
以来、生直後に足の裏だけでなく
赤ちゃんのお腹に
お母さんのフルネームを
紫色の色素(ピオクタニン)ペンで
書くルールになっていた。
一通り会陰縫合や胎盤を出すなどの処置後
やおら新生児診察をしようと
赤子の肌着をはだけると
びっくりするくらいデカい文字で
田中●美だの佐藤x子だの書いてあり
思わずひるんだことを思い出す。
ちょっとしたタトゥー。消えるけど。
今はバーコードが印字された足バンドや手首バンドを
お母さんの目の前で一緒に確認しながら
助産師さんがはめる規則に変わったと聞く。
まあそうだよねー
これらはあってはならない事件だが
今よりもっと子が生まれる件数が多く
殺気だっていたに違いない現場だっただろうから
一方的に責める気持ちにはならない。
きっと誰も悪くないんだと思いたいですが
もう随分と所在なく年月を経てきた彼には
深く同情もしています。
ご自分のルーツが分かり
ちゃんとパズルのピースが
埋まることになればいい、と心から思います。
会えるといいな。
会いたい人に。