閑話休題 ミリオンダラーベイビー | 婦人科備忘録

婦人科備忘録

ある婦人科医の独り言です

ネタ提供ウェルカムですが
最近ご質問内容が
すでに記事になっていることが多くなってきました。
お手数ですが、まずはブログ内をご検索ください。

朝8時からこのお題を

はにわと同列はいかがかと思うが

ちょっと急ぐんじゃないかと思ったので

お題として取り上げます。

 

ちょっと長め。

尿漏れ防止のため

おしっこしてから読んでください。

 

************

1年半前に乳がんを患い、

今は抗がん剤、放射線治療を終え、ホルモン療法のみ。

退院後2日で仕事にも復帰し、バリバリ働いており、

きっと言われなければ

以前の私と何ら変わらないと思われるでしょう。

しかし、がんを患う前と比べ

死生観はかなり変わりました。

以前、先生の記事でみじめに死なないために、

という記事がありましたがとても感銘を受けました。

読みながら涙がこぼれました。

私もやはり最後まで自分の使命を全うし、

凛として死にむかいたいと思っております。

そんななか、つい先日、

ザ・ドキュメンタリーという番組で安楽死について取り上げられ、視聴しました。

私のママが決めたこと〜命と向き合った家族の記録〜と言う番組です。

つい状況を重ねてしまい、

とても心が掻き乱される内容でした。

視聴しながら何度も何度も嗚咽しました。

見終わった後、放心。

自分で命を終える選択をすることに、

私は先の膵臓癌の先生と

同じ死生観をみた気がしました。

 

Q. 安楽死を選択することについてどう思いますか?

 

A. ずるいなって思うよ。

 

 私の敬愛する外科の先生の名誉のために申し上げれば

 彼は、やるべきことをすべて整え

 ちゃんと閻魔の順番を守ったよ?

***********

 

クリント・イーストウッド監督

「ミリオンダラーベイビー」という映画を

ご覧になったことがあるだろうか。

 

貧しい家庭の少女がプロボクサーになる物語。

映画の前半は胸のすくようなサクセスストーリー。

名セコンドに出会い、協力を得て

ひたむきに鍛錬し、やがて頂点に上り詰める。

でも運命はいつでも過酷。

卑怯な対戦相手からの

暴力で脊髄損傷を負い、

首から下が動かなくなってしまう。

複雑な家庭環境もあり、

彼女は生きていることに絶望し

相棒であるセコンドに殺してくれるように頼む。

 

「昔、うちの犬が足を怪我して自分で

 動けなくなったの。

 父はことのほか、その犬を可愛がっていたわ。

 父は

 犬がこれから先、ずっと苦しむくらいなら、と

 黙って森に連れて行き、銃で撃った。


 同じように殺して。


 動けないままずっと

 ベッドに縛られているこの状態から

 解放してほしい。

 だって、ボクシングを取り上げられたら

 もうあたしには何もないの

 そして、今、あたしは、

 自分で死ぬこともできないの」

 

老セコンドは彼女を実の娘のように大事に思っていた。

彼は愛する彼女の願いに、迷った末

病院に忍び込んで彼女に大量の劇薬を打ち、

呼吸器を外す。

 

なんせあたしゃ背番号59番

この映画も号泣したし

なんならそのドキュメンタリーを見てもきっと泣くし

もっと簡単なことでもぼろぼろ泣くだろうけど

 

それは

 

生きている側の決断が

かわいそうで

気の毒だから。だよ

 

自決・安楽死も自殺もそげん変わらん。

 

自決・安楽死と言うと

ちょっとかっこよくなるか知らんが

その重さを遺されたこちら側の人間が抱えて

残りの人生を続けていくことになんら変わりなし。

 

ミリオンダラーベイビーの最後のシーン

老セコンドは二人が初めて会ったパブで

彼女を思いながらお酒を飲んでいるんだけど

遠くでパトカーのサイレンの音が聞こえてるの。

それがなにを意味しているか、わかるだろうか。

 

何よりも彼は、自分は一番正しいことをしたと

思えているだろうか?

 

続きはTSUTAYAで探してもらっていいですか。

ミリオンダラーベイビー、

グラン・トリノと並んで名作です。観るべし。

 

自分の抱えている問題や辛さや絶望、

ご自身がこの世に感じているすべての厄災は

死んでまでは持っていけないので置いていく。

死後、それはすぐに消えてしまうものではなくて

私たちが大事に思ってる人たちへ

問題提起として残ってしまう。

あの判断は正しかったのだろうか?とか

ほんとうは間違っていたんじゃないか?とか

苦しかったんじゃないか?とか

正解のない問い、答えが返ってこない問い

実は彼女が閻魔の順番を守りさえすれば

そんなに苦悩しなくてよかったすべてを

 

未成年のお子に

預けていいわけ、あるか怒

 

成熟した成人ですら絶対尾を引くこのすべての事実を

まだまだ精神的肉体的経済的

四方八方上下左右にサポートが必要な

大人になり切ってないお子たちに

命題として与えることに

一人の母として、まったくちっとも

全然賛成できかねます。


一人分の苦悩だって重いというのに。

自分の荷物は自分で持てよ。

 

時として、自決や自殺は美化されがち。

一部の精神的に幼い人たちは憧れがち。

そりゃそうだ

何度も言うようだが人生の三大イベントは

誕生、結婚、葬式で

派手に注目を浴びるのは葬式だ。自分、いないけど。

その葬式を妄想して愉悦に浸れる性格の悪さよ・・・!

 

私が安楽死と聞いていつも悲しいのは

なにやらそれらしい言葉を当ててるけど

結局のところ手続きを踏んだ自殺だってこと。

そこに

ご本人を大事に思い、

亡くしたくないと思い詰めている誰かの気持ちよりも

ご本人の状況や病状の辛さ、

みっともなく死にたくない、

という自尊心の方が勝っているからです。

 

この世で与えられた

「自分だけの命題」をやり遂げてしまわず

あとはごめんねよろしく先に行くね、で

時に幼いお子や愛する誰かに

辛さを順送りにしたことを、もう謝罪もできない。

どんなにそのシチュエイションが

美化され彩られていても

その実、あまりにもずるくて、

弱くてみっともなくない?


かっこわる。


そんなに急がなくてもいずれ

閻魔にはちゃんと会えます。

閻魔に会うのに列を割って入るのってどうなのよ。

 

生物としてこの生を全うすることは

唯一、生きるものに許された業と思います。

自分が同じ状況に陥ったとして

同じことが言えるか?常に自問自答

その答えはまだ出ないですが

武士は食わねど高楊枝

人生の集大成として

踏みとどまって見せましょうとも。


人生の荷物を他人に押し付けるのは

性に合わんのでね。

 

舞台は幕が降りるまで。

試合はホイッスルが鳴るまで。

コロッケはちゃんときつね色に揚がるまで。

パスタも硬いまま食べたらあかん。ちゃんと茹でな。

・・・あれ?

 

とりあえず今は

この世に生まれて

ご縁があった皆様すべてに敬意を表す。

それが生きるってことだと信じる。

 

まるぽこうさぎ。