婦人科便り122:レルミナ まとめ | 婦人科備忘録

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ある婦人科医の独り言です

8月28日のブログにも書いているのですが(探した 笑)

ツールとして出てくることが多いので、まとめておきます。

 

レルミナ

 

武田薬品の子会社、

あすか製薬から出ているGnRHアンタゴニスト製剤です。以上

・・・とだけでわかる人は少ない。きっと専門家

 

まず、GnRHとは性腺刺激ホルモン放出ホルモンの略です。

脳の奥の方、視床下部というところから

目の奥にある下垂体へ出されるホルモンで、

会社で例えるなら「課長」です。

下垂体=係長

卵巣=平社員

と考えるとすごーくわかりやすいです。

平社員を働かせるには係長から何かしらの指令が必要ですが

この指令を出せ、と係長に命令するのが課長。

レルミナは、

「係長が課長命令を受け取るのを邪魔し、

 仕事をさせないようにする」

お薬です。

 

似たようなお薬にGnRHアゴニスト製剤である

リュープリンやらスプレキュアやらありますが、

あれらは上記の例えに乗っかれば

「係長にニセの情報を掴ませ、一瞬、下の人間だけで盛り上がるが

 すぐにやる気が失せて仕事ができないようにする」

お薬です。

 

どちらがより、仕事をさせない力が強いかというと

リュープリン・スプレキュア > レルミナ

です。

何も操作されなければ

100ほど出ていた卵巣ホルモンが

リュープリン・スプレキュアではほぼゼロになるのに対して

レルミナは20くらいに抑えます。

ちなみに黄体ホルモン製剤のジエノゲスト・ディナゲストも

卵巣ホルモンを抑えますが、こちらは30くらいになるイメージ。

 

ところで、GnRHアゴニスト製剤しか存在しなかったとき

何が困ったか、というと

「一瞬、下の人間だけで盛り上がる」のが大いに困っておりました。

具体的に言うと、これらの薬

使い始めの2週間くらいだけ、

卵巣ホルモンが逆にめっちゃ出る作用を持つんですー

目的は卵巣ホルモンを抑えたいのに

逆に出すぎる状態に一時的にしてしまうため(フレアアップ現象)

ごつい筋腫の人に投与するのは大出血の可能性を与えてしまい、

すごーく気を遣うお薬だったんですね。

不妊治療ではこの「卵巣ホルモンをめっちゃ出させて時に排卵させる」

性質も利用して治療に持ち込んでいたりしますが

子宮筋腫や子宮腺筋症相手だと

できれば最初から抑え込まれたほうが命の危険が少ない。

リュープリンだけが武器だった時は

投与開始2週間後に入院してもらったりしてました。危なくて。

 

なので、飲み始めてから2~3日で

卵巣が黙ってしまう、レルミナがちょー使い勝手が良くて

ほぼほぼ、外来での処方はこれ一点決めになってしまったくらいです。

 

ちなみに、応用編として

ホルモンのバランスが崩れ、子宮から原因不明の大出血を起こす

機能性子宮出血、と呼ばれる状態が時にありますが

この場合でもレルミナがものすごく大活躍します。

一時的に卵巣ホルモンがばーっと出たりせず

すーっと収まっていくので、

ほんとに不安なく飲ませることができます。

 

ただし、良いことばかりではない。

 

ご推察の通り、副作用としては「更年期障害」が挙げられます。

一番多いのは

「頭痛」と「血圧上昇」

特にもともと頭痛もちで、

お天気悪いとバファリンのお世話になっちゃうようなマダムは

頭痛がひどくなる可能性がありますね。

鎮痛剤と併用して飲んでいただき、しのいでもらうことが多いです。

血圧上昇は、ご家族に高血圧の方がいらっしゃるとてきめん。

ご本人が見たことがないような数値をたたき出す。

こちらも血圧を下げるような薬を飲んで、

手術まで頑張ろう、言うことが多いですね。

 

つまり、手術まで我慢せい、というのを

手を変え品を変え 笑

励まし励まし外来を続けます。すまぬ

 

レルミナは子宮筋腫や子宮腺筋症、子宮内膜症の治療に使用されますが

一番効果が高いのは手術前の子宮腺筋症、です。

子宮が良く縮み、痛みも取り去るため

間違いなく患者さんたちが

「せんせ、いろいろ考えましたけど

 もう手術はしなくてよさそうです」言い始める 笑

・・・んなはずないやん、そんなお化けみたいな子宮~逃がさんで!

みんな大好き保険適応が6か月までなのと

飲むのをやめちゃうと3ヶ月くらいで元通りに復活!

してしまうため、あくまで手術前の処置だYO

 

たまにずっと飲みたい女子いて、

6か月飲んで、6か月休んで、

年度が替わるとまた飲めるようになるのでまた6か月して、という

勇者もいます。どんだけお金使うねん・・・レルミナ、安くない。

まあ、手術したら後悔しちゃう女子もいることなので

自分の思うように治療してもろたらええ、と私は思います。

 

しっかし、武田薬品が隅っこの方で

GnRHアンタゴニストの臨床試験をやっていたのは

かれこれ30年前。

製品化するのはこんなに長くかかるのね、と

感慨深いものがあります。

この世の誰かの

血のにじむような努力の結晶として

よいお薬があることに感謝いたしましょう。拝