彼女の唯一の直系の子孫、

ガブリエル・パラス=ラブリゥ二は、

 

幼き頃、シャネルと一緒に

多くの時間を共にしてきました。

 

その彼女が、

こんな風にシャネルを語っています。

 

「家族と一緒の時は、

 公の場で誇示された

 冷たさや自制心のある女性とは正反対

 

 とても暖かくて、優しくて

 愛情にあふれ、よく笑い、

 楽しいことをするのが好きでした(後略)」

 

「彼女にとっては、

 父のことで死ぬほど辛い思いを

 しないためにも

 理想化することが必要でした。

 

 ココは断固として、架空の父の嘘の中に

 閉じこもりました。

 

 幸せな思い出だけを残すように努力し、

 その一つが麦でした(中略)

 

 彼女の部屋にはいつも麦があり、

 花瓶に入れた麦の穂は

 毎年取り替えていました。


 父の思い出の麦、その年の麦、

 豊穣と成功のシンボルです」

 

(「素顔のココ・シャネル」

  イザベル・フィメイエ著)

 

父と二人で麦畑を歩き、

麦を「健やかな恵み」と

伝えたその言葉は、


彼女の中で永遠に響き、

 

コレクションの中でも、

豊穣の麦のモチーフとして

度々登場しています。

 

ともすれば、

幸せな日々を思い出し、自分を捨てた父を

呪いたくなるような象徴である「麦」を

 

愛しいシンボルとさえ思えるほど、

彼女は自分の内的世界を描きなおしたのでは

ないだろうか?

 

彼女にとって、

 

外側の現実は、フィクション。

内側こそ真実。

 

彼女は、内側に息づく

真実の世界で、

 

圧倒的な愛から

一歩も引かずに

生きたのではないだろうか。

 

他人にも過去を語らず、

微量たりとも現実の混入を許さない

 

完成された愛の世界から放射される

純然たる美しさこそ、

 

世界を魅了し、

スタンダードを完全に塗り替えた

圧巻のエネルギーとなったのではないか。

 

そんな風に思ったのです。

 

過去に目を瞑るのではなく、

 

むしろ、過去と深く対峙し、

多くのインスピレーションと

恩恵を受け取りながら、

 

過去の中から、

自分が宝石箱に入れると

決意したものだけを手にして

 

自分の信念と共に

完璧に配置し直し、

 

それを全身全霊で

 

”自分の真実”として

敷衍していったのです。

 

あの過去があったから、

私の出身はこうだから、

この経験がないから、と

 

内的世界を汚すこと一切なく、

 

人生をまるごと

エレガンスとして表現し尽くす。

 

シャネルの最大のエレガンスは、

彼女の人生に対する佇まいだった、

とさえ、思えるのです。

 

今回、

ココ・シャネルスイートに

三泊して、旅立つ頃には

 

あのポートレートの写真も、

キリリと頑張っている愛しい少女の

ように映っていました。

 

彼女ほど、

自分の人生を肯定するエネルギーを

持っていた人はいないのではないか

 

そう思えるほど、

シャネルのいきいきとした

エネルギーが胸に広がります。

 

My life didn’t please me, 

so I created my life.

 

-Coco Chanel

 

有名な彼女の言葉を、

こう訳したくなりました。

 

私の定められた人生は、

私を喜ばせてはくれなかった。

 

だから、私は、

新しい人生を創ったのよ

 

彼女の存在は

 

「その現実にとらわれず、

 あなたの本当の理想を作り上げなさい」

 

そう伝えてくれているように

感じてなりません。

 

彼女がコツコツと築きあげた

内側からあふれでる愛の世界は、

 

コレクション準備の途中

87歳でこのリッツパリで倒れ

天国へと旅立った後も、

 

今もなお、燦然と輝き、

私達を照らし続けています。

 

さあ、今日も、内側から

どんな理想の世界をつくりましょうか♡

 

そんな風に

心から思える素敵な先輩に

出逢えたことに、感謝があふれています



 

Canon