ココ・シャネルスイートに

泊まったその日、

 

夜中3時すぎに目がさめました。

 

ふと、胸に感じたのは

 

圧倒的な静寂

 

前回のリッツパリでは

ウインザースイートに

宿泊しましたが、

 

その時に感じた感覚とは

まったく違う、

 

軽やかな漆黒のような

永遠に続く静寂でした。

 

一体これは何だろう?

 

社交界での華々しい交友歴や

トップメゾンに駆け上るための闘い

嘲笑と喝采を浴びながら駆け抜けた人生

 

どれもが、一見

この静寂とは真反対の世界のように

思えました。

 

ベージュと白、黒を基調とした

非常にシックなインテリア

 

「インテリアは、

 ひとつの魂の延長です」

 

彼女の言葉を思い出して、

 

その生い立ちが、

脳裏に浮かびました。

 

実母が病死し、

多感な12歳から18歳まで

孤児院に預けられたシャネル

 

興味を抱く人々に

尋ねられると

孤児院の過去を伝えず

 

別のストーリーを話して

自分の足跡を追わせませんでした。

 

しかし

 

彼女の人生ともいえる

コレクションには、

 

孤児院時代の制服の記憶に

端を発する白と黒の色使い

 

当時の僧院の石壁や屋根に

感化された、ベージュと黒のキーカラー

 

その生い立ちが色濃く影響しています。

 

孤独の中で

 

聖典や神話、宗教、霊魂の再生、

直感力、神秘学など

霊感の源に常に身を浸していたシャネル

 

運命と向き合い続けた静寂が、

この部屋に広がっているように思えました。

 

豪華絢爛な社交界が広がる時代

過剰なまでの装飾、コルセットや

宮廷風ファッションが全盛の時代に

 

正反対の

厳格で慎ましい孤児院で育ち、

 

ともすれば、

自分のアイデンティティさえ

見失いかねない絶望の中で

 

「これが本物のエレガンス」

 

とシンプルでシックで

実用的なファッションを

世界の喉元に突きつける

 

繊細さと絶望を紡ぎ上げた先の

彼女のあり方に、

心が震える想いでした。

 

「自分の好きなものを作るためではない。

 何よりもまず、自分の嫌いなものを

 時代遅れにするためだった」

 

なぜこの仕事に自分をかけたのか?と

問われてそう答えたシャネルは、

 

虚栄には、実用性を

豪華絢爛な伝統には、抑制の美学を

本物の宝石には、軽やかなイミテーションを

 

そして

当時は、喪服でしか着られない黒を

光の宝石箱のような陰、と表現して

リトル・ブラック・ドレスを生み出しました。

 

私が”美しい”と思うものが美しい、と

嘲笑や誹謗さえもエネルギーとして

 

自分の描くエレガンスから

一歩も引かない姿勢は、

 

100年経っても色褪せない

美の世界を生み出しました。

 

そんな、たった一人の闘いを

支えていたのは、

 

この永遠なる静寂であり、

 

自分を通して神と向き合うような

この空間だったんだ、と思うと

その日々が胸に迫り、

言葉になりませんでした。

 

実母の死後、

実の父から捨てられるように

孤児院に預けられ、

 

最愛の恋人の死や兄弟の早逝など

絶望に満ちた運命に翻弄されながら、

 

彼女はどのように

自分を支えていたのだろうか?

ふと疑問が湧いた時に、

 

彼女の唯一の直系の子孫、

ガブリエル・パラス=ラブリゥ二の

言葉が蘇りました。

 

続きますキラキラ